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2018-02-18

迷鳥(7)

「さて……と、どうしたものかしらねぇ」
聖歌隊を従えてメガイエローに歩み寄った口紅歌姫は、軽い口調でそう言って、黄色いスーツの背中や腰が床の上でぷるぷると震える様子を見下ろした。
「うぅ……っ!」
跳ね起きようとしたが、肩に力を入れただけで頭がズキンと痛み、それはできなかった。
「ここにはリンが来ると思っていたのよ。あのネジイエローの準備ができるのもまだかかりそうだし……」
(ネジイエロー…… やっぱり……!)
口紅歌姫が自分より先にネジイエローと会っていたのは予想した通りだったが、それが分かったところで今はどうすることもできない。

リンがここへ来てくれたら、と拳を握り締めたとき、両腕がぐいと引っ張られて身体が真上へ持ち上げられた。
「あっ、あ……?」
視線をちらりと横へ向けると、そこにあったのは悪魔聖歌隊として操られた女性の顔だった。二人がメガイエローの肩を抱き起こし、力の入らない身体を無理やりに立たせている。
「私はお前に用はないの。でもネジイエローは何だか…… お前に特別な興味でもあったみたいね」
左右から腋をぶら下げるように抱えられたメガイエローは、自分の足で立つ力が戻らないまま、口紅歌姫の方を向かされている。
「メガイエローの…… マスクを剥いで持って帰る、なんて言ってたかしら」

(製作中)
2017-12-26

迷鳥(6)

黒く錆び付いた小さな鉄窓を外から開け、床や荷物が薄い埃に覆われた屋根裏部屋のような倉庫にメガイエローは降り立った。板張りの床を通して、階下から不安を掻き立てるような歌声が先程よりも大きく聞こえてくる。
一階へ降りる木製の階段は足を掛けるとギシリと軋んだ。気付かれずこっそりと近付くことはできないと判断し、階段を一気に飛び降りると、音楽室に通じるカーテンを一気に引き開けた。


頭部と両肩を口紅の意匠で象った怪人が、4人の女学生に向かって指揮をするように手を振っていたのを止め、ゆっくりと振り向いた。
「ほう…… その格好、どうやらお前が『メガイエロー』ね」
歌声を止めて無表情で立ち尽くしたままの4人組を背後に、冷静な口調でその女怪人、口紅歌姫は言った。
(これが口紅歌姫…… でも、どうして私のことを知ってるの?)
メガイエロー・千里は相手の言葉から、もしかすると自分より先にホウオウレンジャーがここに辿り着き、口紅歌姫に倒されたのではないか、という最悪の予想を一瞬思い浮かべてしまう。
(まさか……!)
紫がかった口紅やアイシャドウをこってりと塗られた4人の歌い手の顔を順にまじまじと観察して、その中に変身を解いたリンが居ないかを見極めようとする。
「どうしたの? お前のお友達でもこの中に居るのかしら?」
戸惑った様子のメガイエローに口紅歌姫が問い掛けるが、どうやらそこにはリンのことを仄めかすようなニュアンスはなかった。

「その人たちをどうするつもりなの!?」
口紅歌姫が自分を知っているのは、ホウオウレンジャーから聞いたのではなくネジイエローに接触したためではないか、と気付き、まずは相手の持つ情報を引き出すことを決める。
「教えてあげるわ。この娘達には、ゴーマの力を持つ歌を歌えるように仕込んであげているの。なかなかいい素材が揃っていたわ」
身構えるメガイエローに向かい合ったまま、口紅歌姫は片手を高く上げ、背後の4人に指示を飛ばす。
「最初はダイレンジャーに聞かせてあげたかったけど、リハーサルのいい機会だわ! 悪魔聖歌隊! レッスンの成果を見せてやりなさい!」

口紅歌姫と前後を入れ替わるように、4人の聖歌隊が揃って進み出てくる。そして一斉に目を見開いて口を開くと、高音のソプラノ・ボイスがそこから流れ出てきた。
(歌……? もしかして……)
初めに、両側の2人が透き通るような声でメロディを奏で始めたのが感じ取れた。続いて、残りの2人が歌い始めた瞬間、4者の声が奇妙な不協和音を構成してメガイエロー・千里の耳に飛び込んできた。
「あ…… あぁっ……!?」
視界が斜めに傾き、メガイエローは危うく体勢を立て直してタイル張りの床にブーツの底を擦り付けた。
目の前の景色が歪んだようだった。空気の振動である音響が、部屋の空間までを歪ませ、ねじれさせていく感覚に、思わず両手をマスクの両側に伸ばす。
(だ、だめっ!)
だが、それが何の意味もない行為であることは手を動かす前から気付いていた。歌声を利用した攻撃だと分かった瞬間に、メガレンジャーのマスクが内側で耳を覆う構造になっていないこと、外からマスクを押さえても耳を塞げないこと、などを一気に思い出していたのだ。

スーツとマスクを身に着けている間は、髪を触ったり、汗を拭いたりすることができない。それと同様に、マスクの内側にある耳は、いくら不快な状態であっても外側から一切触れることはできない。
「っは…… あ、あぁ……っ! あぁ~っ!」
薄く硬い、音波を防ぐことができるはずのない素材のマスクを通り抜けて、地獄の不協和音が千里の鼓膜を震わせ、そこから脳に至るまでの様々な感覚器官をじわじわと浸食していく。丸いマスクの両側を力任せに手で押さえつけるとごくわずかにマスクがたわむような感触があったが、あと数センチの空間をそんなもので埋められることができないのは自分でも分かり切っていた。
マスクの遮光シールドや換気システムは閃光や毒ガスからメガレンジャーを保護するように設計されているものの、音による攻撃は想定されていない。外装で気圧変化に対応したためイヤーパッドは省略され、耳から最も近い部分には換気用のスリットさえ設けられていた。

「うああぁあっ! やめっ、やめてぇっ!」
両手のひらでマスクを押さえつけたメガイエローは、耳の痛みと不快感に耐えきれず背筋を反り返らせて頭を前後に振り乱した。
音楽堂の室内に響き渡る歌声が、マスク内壁や鼓膜の内側でさらに共鳴し、新たな不協和音を作り出してぐちゃぐちゃになった知覚情報を脳に送り込んでくる。高周波の電子ノイズを耳元で聞かされている錯覚が続き、モニターの誤作動なのか脳が混乱しているのか、眩しい光の粒が目の前で爆発し飛び散る感覚までがそれに追加されていく。
(目が…… マスクが……っ!)
膝をがくがくと震わせて、メガイエローは頭を上から押さえつけられていくような動きで床へ尻を付き、その場へ這いつくばった。苦痛のあまり、グローブの指先がマスクの側面を引っ掻き、細いスリットに爪をこじ入れようとし、理性とは矛盾した動きを繰り返す。
一瞬でもいい、耳や目を押さえてこの歌声攻撃から逃れたい。そうするにはマスクを外すしかないことは分かっている。だが、敵に攻撃を受けながらそんな事はどうしてもできない。

「ほほほほ……! いい反応だわ」
口紅歌姫の哄笑が聞こえたとき、歌声がすでに止まっていたことにメガイエローはしばらく気付かなかった。
「……っはぁ……! はあ……!」
床の上で、腹這いに近い体勢になっていた身体の力を抜き、マスクに包まれた頭のこめかみ近くを石のタイルへ押し付ける。すぐに立ち上がることはできなかった。耳の奥でキーンと残響が続いて、強い吐き気のために頭を動かすことができない。
(強い……! ネジレジアの怪人とは違う…… 一体何なの、この力は……?)

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2017-10-09

迷鳥(5)

「やっぱり大学って結構…… 広い!」
メガイエローへの変身を一時解除して、千里は学内を走り回る。全身ピンク色の人を学内で見かけたという目撃者の話を聞き、その場所を探したが、建て替え中の建物や立ち入り禁止区域を迂回したりして、ようやく目的地に辿り着いた時にはリンの姿はなかった。

(そういえば、リンさんの変身前の顔も知らないんだった……)
高校の制服でいる千里の姿は大学構内で若干目立ってしまっていたが、リンが変身を解除していたとしたらこちらから探すのは難しそうだった。
(それと、口紅歌姫、だっけ? 怪人の名前……)
リンはもう怪人の元に辿り着いて戦っているのかも知れない。だが出会ってからあっという間に別れてしまったため、リン達が戦っているというゴーマ族のことも何も知らないままで来てしまった。
「まだ大学の中に居るとしたら…… 『歌姫』…… 音楽室?」
近くに掲げられた大きな構内地図を確認する。大学の敷地端には、他の建物からは少し離れて建てられた小さな音楽堂があるようだった。

・ ・ ・

教会や礼拝堂を思わせる、白い石造りの外壁に縦長の窓ガラスが一列に嵌め込まれた円形の建物の中からは、女声の合唱がかすかに聞こえてきている。
玄関には鍵が掛かっており、防音が施されているらしい分厚い窓を覗き込んでも、黒い遮光カーテンのために中の様子がよく分からない。そこから横へ回り込み、カーテンに隙間ができているのを見つけて、背伸びをしてようやく建物内部の様子を伺うことができた。
「……!」
高い舞台の上に並び、歌っている数人の若い女性は、全員が普通の合唱団やコーラス部員とは違う雰囲気を漂わせていた。服装は皆ばらばらの私服で、誰もおかしな服を着ているわけではなかったが、濃い色のアイシャドウを目元がぎらつくほどたっぷりと塗り、チークも特殊メイクでしか使わないような寒色のパウダーを頰に付けて、その異様な印象そのままの無表情で大きな口を開けて歌っている。
まるで自分の意思を失ったようなその顔と視線が合いそうになり、千里は慌てて顔を下に引っ込めた。

身を屈めたまま小走りに駆けて建物の裏へ回り、中の人間に気付かれず侵入できそうな入り口を探す。白い外壁に沿って視線を上げると、2階の窓にわずかな隙間が開いているのが目に入った。
(……よし!)
左腕を勢いよく斜め下に突き出し、手首の甲側に着けたデジタイザーを制服の袖先から露出させて、変身コードを入力する。
「インストール! メガレンジャー!」

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2017-07-23

迷鳥(4)

「一体どういうこと? 西暦1993年!? あり得ない……」
大学の講義棟裏に立ったネジイエローは、構内で出会った学生から奪ったノートPCを片手で操作しながら呟いた。
自身の通信機能や、ネジレ次元を通じての空間移動が使えず、メガイエローを追い詰めたつもりが逆にこちらが孤立無援の状態に追い込まれてしまった、とピンク色の戦士から受けた攻撃を思い出しながら苛立たしげにキーボードを叩く。
「それに……」
もう一つ気に掛かったのは、PCの持ち主だった学生がネジイエローを見て叫んだ、「こっちにも出た!」という言葉だった。ネジピンクが自分と同じくメガイエローをここまで追ってきたという可能性はある。だがそれならお互いのネジレ反応に気付かないわけがない。ピンク色の戦士が、メガレンジャーとは違った種類の力やスーツで武装していたこととも関係していそうだった。
「しかし、データが少なすぎるわ……」
メガイエロー達ともう一度出くわす前に、少しでもこちらに有利な状況を作り上げておきたかった。

分厚いA4サイズのノートPCを地面へ投げ捨て、もう一度付近のサーチを開始する。ネジレ反応や電磁波だけではなく、あらゆる種類のエネルギー反応、特に人間型の生体エネルギーとして強力なものを、徐々に範囲を広げながら探っていく。
「……!」
対象と思われるものは意外とすぐに発見された。それは構内のそう離れていない場所に居て、人間と似て非なる種類の信号を発していた。

・・・・・・

(あれだわ……)
目立つ姿をした5〜6人の人影が構内地図の前に集まっているのをネジイエローは物陰から観察する。
「まずは音楽堂の方だわ。お前とお前は先に行って邪魔な人間を追い出しておきなさい」
一様に仮面を着け、黒い燕尾服のようなものを着た集団に向かって、女の声が指示を与えている。しかしそれは一見してやはり人間の女ではなかった。面積の少ない黒いボンデージ衣装を着た上に、紫色の帯が片脚から首元に向けて螺旋状に巻き付き、それと同色の、先が斜めに切り取られた長い円柱が鼻から上の頭部を構成している。両肩から突き出した赤い斜円柱は、頭部のデザインと合わせて口紅のスティックがモチーフとなっていることを予想させた。
その姿や声の調子によって、強いエネルギーを放つ中央の人物は女怪人と呼ぶしかない風格を漂わせていた。
「ねぇ……」
警戒心よりも興味が勝って、ネジイエローは建物の角からすいと進み出てその一団に声を掛けた。
一斉にこちらを向いた燕尾服の1人が向き直り、剣を振りかざして飛び掛かってくるのを、ネジイエローは片腕で受け止め、傍らへ放り捨てる。
「貴女、随分ねじれたヴィジュアルね」
「誰!? お前は」
流石に驚いた様子の女怪人が、燕尾服姿の戦闘員達を周りに従えて、手に持った大刀の先をネジイエローに向ける。
「誰かしらね。たぶん、敵の敵…… ってところじゃないかと思うのだけれど」
自分の戦闘力が迂闊に手を出せるレベルでないことが相手に伝わっているのを感じながら、モデルのように軽く斜めに構えてゆっくりと腕組みをしてみせる。
「敵…… ダイレンジャーの……!?」
「『ダイレンジャー』ね…… なるほど、だんだん解ってきたわ。あのピンク色の小娘、貴女も狙っているのではなくて?」

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2017-05-06

迷鳥(3)

しばらく混乱した会話が続いたものの、最終的には二人共がお互いの立場と状況を理解することができた。
きっかけになったのは、千里がふと思いついて現在の時刻と年月日を相手に尋ねたことだった。
「1993年!?」
ピンク色の戦士が口にした、千里からすれば3年前の日付が聞き違いでも勘違いでもないことが分かると、今いるここが一種のパラレルワールドのような世界なのだという結論に落ち着くしかなかった。
(そうか、途中で通り抜けたあの空間、きっとあれがネジレ次元で、何かの拍子に出口がこの世界と繋がっちゃったんだわ……)

「分かった、あなた達はそのネジレ次元から来た敵と戦っていたのね。私はゴーマ族と戦うダイレンジャーの、ホウオウレンジャー・リン。リンと呼んでくれればいいわ」
「私は電磁戦隊メガレンジャーの……」
メガイエローという名に加えて本名を明かすべきかを悩んだが、味方以外には変身前の正体を知られたくないということを強く念押しして、下の名前だけを名乗った。

「ところで、その手錠は……」
「そう! これがそのネジイエローに付けられたものなの! まずはこれを壊さないと……!」
会話の間ずっと身体の前へ下ろしたままだった両手首を胸元まで持ち上げて、見るからに凶悪な造型の手錠を示す。元の世界にどうやったら戻れるかを話し合うより前に、解決しなければいけない危機がいくつも差し迫っていた。
「まかせて!」
ホウオウレンジャー・リンは右腰に着けた細身の短剣を引き抜き、目の前で縦に構える。
「そのまま動かないでね」
「う、うん」
手錠の中央付近を目掛けて剣が振り下ろされると、鋭い打撃音と、手首に金属が重く食い込む感触と共に手錠が真っ二つに破壊された。
「やった……!」
引き千切れたような装置断面から白い煙を噴き出して発光を止めた手錠は、手首を拘束する施錠機能を同時に失って、いくつかの残骸となって足元へ転がり落ちた。
白いグローブの上から手錠に軽く締め付けられていた部分を千里は撫でて、手首から先が正常に動くことを確認する。
「ありがとう、これで……」
その時、背後から近付いてくる怪しい気配に二人は同時に気付いてそちらの方を振り返った。

「今日はなんだか…… 想定外のことばかりが起こるのね」
周りの空間を歪ませるような強い殺気を発しながら、ゆっくりとした歩調で近付いてきたのは、黒と黄色のアーマーに身を固めた女怪人、ネジイエローだった。
「メガピンク…… ではないようね。誰だか知らないけど、その娘をよこしなさい!」
ネジイエローがそう言って右手に力を込め振り上げようとするのを見て、千里は咄嗟に叫んだ。
「攻撃が来るわ! よけて!」
黒い掌から発せられた稲妻のような光線が、2人の背後にあった銅像に当たり小爆発を起こす。千里とは反対の側に跳び離れて攻撃を躱したリンが、破壊された像と、煙を上げる掌をこちらに向けながら近付いてくる敵の姿を見ながら叫ぶ。
「あれがネジイエローね!」
「そういう事!」
一対一では全く勝ち目のなかったネジイエローに対して、さっき出会ったばかりのホウオウレンジャー・リンと共にどう戦うべきかを、千里は考えを巡らせながら自分の武器を手に取る。ネジレジアの手錠が外れた今、全ての装備が正常に動作するはずだった。
自分と同じくピンクの戦士の出方を伺う素振りを見せるネジイエローの注意を引くように、いつもよりも大振りな動きでメガスリングを構える。

その時、リンが腰のホルスターの武器を抜くこともなく、胸の前で片方の掌にもう一方の拳を押し付け、張りのある声で叫んだ。
「天風星! ……一文字竜巻!」
構えの姿勢から右手を手前に突き出すと同時に、その手の周りの景色が一瞬歪んだ。
「っ!」
腕をクロスさせて未知の攻撃に備えるネジイエローに向かって、銃弾でも光線でもないピンク色を帯びたエネルギーの塊が押し寄せる。それは、叫んだ技名の通り竜巻のように渦を巻く突風だった。
もつれ合う風がネジイエローの身体を巻き込み、錐揉みのようにその場で何度も回転させる。
「なっ…… 何なの? このエネルギーは……!」
土埃の中へ激しく転倒し、そこから片膝をついて立ち上がりながらネジイエローは驚きを露わにする。
(今だわ!)
弓矢のように大きく引き絞っていたメガスリングをそのまま発射し、長く尾を引く黄色のエネルギー弾をネジイエローの脇腹のあたりへ命中させる。
「くあぁあっ!」
爆発音と火花を上げてもう一度地面へ倒れた敵の様子を確認してから、千里はリンの方にもちらりと視線を送り、メガスナイパーの保持姿勢を初期状態へ戻す。

「うっ、くぅう……! 仕方ない、一旦撤退だわ…… 覚えておきなさい!」
そう言い捨ててネジイエローの姿が搔き消えるのを目にし、千里は安堵の気持ちと共に若干の高揚感を覚えながら、もう一度リンと顔を頷き合わせた。

「うまく行ったわね!」
駆け寄ってくるリンに、千里はまだ少し落ち着きを取り戻せないまま答える。
「う、うん。すごかったわ、今の…… 技?」
「そう、気力技ね! 私達ダイレンジャーは『気力』の力で戦うの」
「気力……」
メガレンジャーとは全く違う性質の組織であるらしいダイレンジャーのことに千里は興味を惹かれながら、さっき途中で中断された会話の内容を思い出す。
「そうだ、リン…… さんの探してた怪人は? まだこの近くに?」
そう言うと、リンの態度がマスクの下でさっきまでの明るい様子から変化したように思えた。
「ゴーマ怪人の『口紅歌姫』よ。ついさっきこの大学に現れて、私の友達がそいつにさらわれて……!」
「えっ」
「たぶんまだ大学内に居るんじゃないかと思う。もしかしたら他の人が襲われてるかも……!」
「大変! そんなことなら、私も……」
相手が自分と同じくらいの緊急事態の最中に助太刀をしてくれたことを知って、千里は申し訳ない気持ちに襲われる。私も一緒に口紅歌姫を探して戦う、と提案したが、リンはそれを断った。
「気持ちは嬉しいけど…… この事だけはどうしても私一人でなんとかしたいの」
「どうして? 他のダイレンジャーの仲間も居るんでしょう?」
千里の言葉にリンはしばらく俯く。
「友達がこの大学で襲われたのはきっと私を狙ってのことだし、私一人の力で助けないと…… これ以上他の人を巻き込みたくない。だから、あなたも……!」
そう言って顔を上げ、濃い緑に囲まれた小道に向かって駆け出そうとする。
「これが終わったらあなたの事、みんなに相談してみるから! 3時まで、この場所で待ってて! それじゃ!」
「え、えっ……」
慌ただしく走り去っていくリンの後ろ姿を追いかけるきっかけを失って、千里はその場に立ち尽くした。

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2017-04-30

迷鳥(2)

「……っ!?」
重力の感覚が戻ると同時に、ずっと希薄だった地面の実体が膝や前腕に感じられてくる。
メガイエローは柔らかな陽光に照らされた、ざらついたアスファルトの上にいつの間にかうずくまっていた。
「ここは?」
手錠で繋がれたままの両手で上体を起こし、辺りを素早く見回す。緩いカーブを描く、緑の植え込みに挟まれた小道。公園か何かの公共施設のようだった。遠くから人の談笑する声が聞こえ、先程までの逃走で通過してきた場所とは全く違う、日常の空間に戻ってこれたという雰囲気がある。
自然と小さな溜息が口をついて出る。手足には疲労が残り、手錠の装置は黄色い点滅とともに妨害電波を発し続けていたが、メガイエローは少しだけほっとしてその場に立ち上がった。

道に沿って歩き出すと、耳慣れた鐘のメロディのチャイムがどこからか風に乗って聞こえてくる。
「学校……?」
木々の向こうに校舎を思わせる建物が見えたが、自分たちの高校のものではなかった。ここがどこなのか、そして東京からどのくらい離れた場所なのかを知りたいが、メガスーツのサーチ機能はやはり働かない。幸いネジイエロー達がすぐに追ってくる気配はなく、あの建物の表札か何かを見て現在地を確認しておいた方が良さそうだった。
念のためマスク内部の情報表示モードを切り替えてみるうち、場所や方角だけではなく、現在時刻や日時を示す数字が文字化けを起こしていることに気付いた。
(まずい…… もしかしてスーツの機能が……)
改めて気を引き締め、身をかがめながら小走りで建物の方へ向かい、途中にあった銅像の台座の陰に身を隠す。学校の校舎のように見えた建物には、メガイエロー、千里自身よりも少し年上の若い男女が鞄やテニスラケットなどを抱えて出入りしていた。大学の敷地だったのかと納得し、もしかしたら今の自分の助けになるような人物が居ないだろうか、たとえば研究室に…… と考えながらもう一度身を乗り出したとき、唐突に後ろから声を掛けられた。

「誰!?」
緊迫した調子の、若い女性の声にメガイエローは思わず首をすくめた。
(しまった……)
メガスーツの姿で、しかも手にこんな目立つ手錠を嵌められた状態で大学の関係者に見つかったら…… と、恐る恐る振り向いたメガイエローは、呼び止められたとき以上の驚きで目を見開いた。

そこに立っていたのは、身体に密着したピンクと白のスーツで全身を包み込み、首から上もピンクを基調にした配色のフルフェイスヘルメットで覆い隠した、つまりメガピンクにも似た装備を身に付けた人間だった。
「みく…… メガピンク?」
思わず仲間の名を口に出してしまってから、"誰?"と聞かれたのにそれは有り得ないと思い直す。しかし、目の前の人間は見たことのないスーツとマスクを着けてはいながら、なぜかメガレンジャーの敵ではないという気がした。例えば、少なくともネジピンクが化けた姿とは思えなかった。
だが相手は警戒した様子を緩めず、地面に片膝を付いたメガイエローが両手の手錠をカチャリと鳴らしたのを見て、即座に右半身を後ろに引き、左手の拳を前に突き出した拳法の構えを取った。
「あなた、やっぱりゴーマの……!」
「え、えっ……!?」

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2017-04-30

迷鳥(1)

メガイエロー・千里は深い霧の中をよろめきながら走り続けていた。
煙のような、湯気のような白い浮遊物であたり一面が覆われ、数メートル先の風景も見通せない。その霧以外には何も存在しないように思える空間を、ぼんやりとした光だけが遠くから照らしてくる、その方向を目指して駆け続ける。
「はっ、はっ……!」
イエローのメガスーツに包まれた身体、白いブーツを履いた両足が地面を踏みしめるたび、両手首を繋ぐ複雑な形状の手錠がカチャカチャと音を立てる。
ネジイエローからの急襲を受けて嵌められた手錠は見た目以上にずっしりと重く、両手を身体の前面で中途半端な位置に固定して、逃走を妨げるばかりか様々な装備品の使用を不可能にしていた。手錠の中央部から発信される妨害電波も、I.N.E.T.からの捜索と同時にスーツ側からの各種サーチ機能を制限しているようだった。

(一体ここは…… どこなの……!?)
ネジレンジャーのイエローとピンクの仲間割れに乗じて何とか逃げ出すことができたものの、岩山や工場地帯、ゴーストタウンのような市街地と様々な場所を駆け抜け、ようやく追跡を振り切ったかと思った先がこの謎の空間だった。不規則なノイズが前後左右から響き、いつ目の前にネジイエローの姿が現れるか分からないと思いつつも、前方の微かな明かりだけを頼りに、疲れ切った手足を無理やりに振り立ててひたすらに進んでいく。

明かりの強さが少しだけ増したように感じたとき、霧の中で何度か経験した目眩の感覚がもう一度やってきた。
「あぁ……? あっ?」
まるで重力が突然失われたようだった。身体が宙に浮き、空間全体がぐるりと回転したかと思うと、メガイエローは眩しい光の中へ吸い込まれるように投げ出された。

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鳥籠

Author:鳥籠
管理人の名前も鳥籠。
2chエロパロ板のヒロピンスレでの活動を経て個人ブログを立ち上げました。

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