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2014-11-09

渇水(2)

「たしかこっち側が……」
市民プールの敷地を出て裏通りへ回り、目隠しの柵をへだてて競技用プールがある辺りまで来ると、何者かが大きな足音を立ててコンクリートの上を歩き回っている様子が分かった。
「ゲロゲ〜ロ、こんなところにもまだ水があったぞォ」
足音の主が発する低い声が聞こえる。"バケモノ"の正体はこれに違いないと、七海はその場から鉄柵を飛び越えて乾いたプールサイドへ降り立った。

「ゲロ?」
突然現れた七海に気付いて驚いた様子を見せたのは、二本の足で立った巨大なカエルのような怪人だった。体のあちこちが機械化され、顔は間抜けだが凶悪そうな武装をしている。
「その格好、ジャカンジャね! プールなんかに現れて何を企んでるのよ」
「ゲロゲーロ、オレは水喰い忍者ガマジャクシ! これから地球の水を全部吸い取ってスッカラカンにしてやるのでゲロ」
ガマジャクシと名乗った怪人は、指がホースか銃口のようになった手を振り回しながら言った。
「水を!? ちょっとちょっと、そんなこと絶対にさせないんだから!」
地球侵略はひとまず置いておいて、この暑い日に目の前でプールの水を吸い取られてはたまらない。ガマジャクシがそんなことをやる前に止めに入れたのはある意味ラッキーだった。
怪人の返答を待つことなく左手のハリケンジャイロを取り出し、回転機構を作動させる。
プールの水面全体を波立たせるほどの風神エネルギーの発生とともに七海の全身が光に包まれ、鮮やかな青色のシノビスーツを身に張り付かせた戦士の姿が現れた。
「水が舞い、波が踊る! 水忍・ハリケンブルーが相手よ!」
仲間に連絡せず一人でシノビチェンジしたのは、水忍同士の一騎打ちという意味もあるが、ちょっとした下心もあった。今日は入場待ちまでしてプールで泳ごうとしていたところに思わぬ邪魔が入ってしまったが、この怪人を難なく倒せれば人が戻ってくるまでしばらくの間は泳ぎ放題、プライベートプール状態になる。できれば一人で広い貸し切りプールを満喫したかった。
(ま、それくらい役得ということで、いいよね……)

「ハリケンジャーか! これでもくらえィ!」
ガマジャクシが指先から弾丸を打ち出してくる。ハリケンブルー・七海は弾丸を避けてプールの方へ跳躍すると、競技用プールのコースを仕切る、青と黄色のフロートで水面に浮かんだロープの上へ両足を揃えてふわりと着地した。

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2014-11-09

渇水(3)

「ほーら、こっちこっち」
敵を誘うように、ロープから隣のロープへと身軽に飛び移っていく。
「なにおぅ!」
だがガマジャクシはこちらへ飛び込んでくる様子はなく、元いた場所からばらばらと弾丸を撃ってくる。その弾が肩をかすめ、ハリケンブルーは立っていたコースロープの足元、プールの水中にするりと飛び込んだ。

プールの水深は深く、ハリケンブルーの身長だと少し身を屈めれば全身が水中に隠れるほどだった。水中で戦うとすればちょうどいい深さである。
ハリケンブルーのシノビスーツは水忍の装束だけあって、水中での活動に適した構造と機能を備えている。ウェットスーツや潜水服と違って薄くしなやかな特殊繊維で、特に鎖帷子のように見えるアンダースーツは極薄で肌に張り付いているから、こんな日に水に入ると火照っていた肌に水の冷たさが感じられて気持ちいい。スーツに水は染み込まないが、身体にかいていた汗は薄いアンダースーツから外へ染み出していくので、マスクやブーツを除けばほとんど裸で水中にいるような爽快感がある。怪人を倒して水着に着替えて、といったことをしなくても、しばらくこのまま水遊びを楽しんでしまえそうだった。
水面から顔を出すと、初夏の太陽が真上から照りつけてマスクの中に光が差し込んだ。
「なんで来ないの? こんなに気持ちいいのに」
背泳で中央のコースを泳ぎながら、ハリケンブルーはガマジャクシに向かって声を上げる。
「まさか、カエル忍者のくせに実は泳げないとか?」
それでもガマジャクシは水中へ追ってくることはなく、プールサイドからハリケンブルーを狙い撃ちしてくる。
「あっ!」
水面から出ていた膝に銃撃が当たり、鋭い痛みを感じたハリケンブルーは再び水中に身を隠す。
「いたっ、た……」
致命的な威力はないが、何発も食らって無事で済むような攻撃でもない。水遊びを優先するあまり、敵を誘い込むどころか水中に追い詰められてしまったような格好になってしまった。
(そろそろ、こっちから仕掛けないと……)
スーツの機能のおかげで水中に居ても呼吸の心配はない。その気になれば何時間でも潜んでいることはできるが、このままでは、水食い忍者と名乗った怪人がプールの水を吸い出してしまうだろう。そうなると、使える水忍法も限られてしまう。
背中の剣、ハヤテ丸の柄に手をかけて、プールサイドにいるガマジャクシの様子を伺った。

「ゲロゲ〜ロ。上がってこないなァ〜」
ガマジャクシは、ハリケンブルーがプールの底に腰を落ち着けたのを見て、そろそろ行くかとでもいう風にその場で反り返って、大きく息を吸い込んだ。
「行けっ! 子ジャクシぃ!」
ガマジャクシの巨大な口から、大型のオタマジャクシが、魚でいえば鯉ほどもあるものが次々とプールの中へ吐き出された。
水中で、親と同じく機械的な外見のオタマジャクシが近付いてくるのを見て、ハリケンブルーはプールの底で後ずさりする。
「な、何これ…… 触らない方がいいわよね……」
だが水中に投下される子ジャクシの数は増えていき、ざっと百匹以上がハリケンブルーの周りをゆっくりと泳ぎ回っているような状態になっていた。こちらへ襲い掛かってくる様子はないが、その内の一匹二匹が緑色に光ったのを合図に、次第にすべての個体が鈍い光を放ち、体をぶるぶると震わせ始めた。
「え、えっ、何よ!」
背後にいるものも同じ動作を始めていた。いざとなれば水の外に逃げる準備を整えながら、まさか電気でも流すつもりかとハリケンブルーは子ジャクシ達の出方を待った。

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2014-11-16

渇水(4)

発光するオタマジャクシの群れに囲まれ、前後左右に気を配りながら息を潜めるハリケンブルーだが、敵はまだ動きを見せなかった。
プールの底に片膝立ちで身を沈めたまま、本体のガマジャクシの様子はどうかとプールサイドの方を伺うと、ガマジャクシは先程と同じようにそこに立っているだけだったが、その見え方に何か違和感があった。
(後ろは……)
背後の子ジャクシの行動を確かめようとゆっくり振り返った時、その違和感の原因が分かりかけた。

体の動きが、ではなく、水が重い。プールの水が粘り気を帯びたように変化している。じっと同じ姿勢でいたために今までそのことに気づかないでいた。背中の刀から右手を離して腕を下ろすと、動かした手に纏いついてくる水の質感がはっきりと感じ取れた。
「やっ、やだ……!」
粘りだけではなく、水中にドロドロとした透明な塊、まるで鶏卵大のカエルの卵を思わせるようなものが無数に浮かんでいるような感触だった。足元の感覚で、水面近くからプールの底まで、水が全てその質感に変わってしまっているのが分かった。
思わず、コンクリート製の底に片膝をついていた姿勢を崩し、プールサイドからの攻撃のことも忘れて立ち上がりかけた。粘りを増してきた水の中で脚を動かそうとすると、両脚の間を見えない粘液卵で掻き撫でられ、気味悪さに力が抜けて前へつんのめってしまう。しかしその上体の動きがまた水の粘り気に阻まれ、中途半端な体勢で水中をもがくことになった。
(こ、これ…… まずい……っ! 一度、水から出ないと……!)
溺れるはずのないプールで、泳ぎ方を知らない人間のように手足をめちゃくちゃに動かす。透明な粘液塊が腕や足に纏わり付くような感覚をもたらし、全身が粘液に漬けられていることを想像するとパニックに陥ってしまいそうになる。
(だめっ! ここで焦ったら本当に溺れる……! 落ち着いて、落ち着かないと……!)
水中で大きく振り回した手の先が、水面を掻き分けて泡の混じった水しぶきを立てた。水の性質が変わると同時に、水自体の量が減ってきているのだった。

「はぁっ、はぁ…… はぁ……!」
ようやく体のバランスを取り戻し、プールの底に両足を付けて立ち上がる。まっすぐに立つと水面から肩が出るまでに水量が減ってしまっていた。
「ゲロゲーロ、やっと出てきたな」
「ちょっと…… 何なのよこれ!」
鎖帷子と、その上に着ている青い忍装束の間に粘液が溜まっている感覚が気味悪く、ハリケンブルーは両腕で自分の肩を抱くようにしてスーツの胸元に隙間ができない姿勢を取る。それでも忍装束の内側にはどうしても幾つものカエル卵が溜め込まれ、胸や背中で押し潰された卵がヌルヌルと動いている。
(うぅ…… 気持ち悪い……!)
またプールの外から飛び装具で攻撃されたら、もう一度この水中に頭まで浸かって過ごさなくてはならなくなる。何より、子ジャクシ達に囲まれているのは危険すぎる。
(こうなったら、一気に勝負を付けないと……!)
プールサイドまで泳ぐことはせずジャンプして水から出ようと考えたが、プールの底が水の影響を受けてかヌルヌルと滑るのをブーツの靴裏に感じる。迂闊に飛び上がろうとすれば、さっきと同じくバランスを崩してしまいそうだった。

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2014-11-23

渇水(5)

ハリケンブルーは胸の前で手を合わせて印を組み、水忍法の気を練る。
「忍法…… 水柱!!」
プールの水を足元へ集め、そこから急上昇させて身体を上へと持ち上げる。高さ数メートルの水柱を吹き上げ、そのままの勢いで飛んでガマジャクシの頭上から斬りかかる…… はずだった。
足の裏がぐいと押し上げられて、直立姿勢で身体が水面まで浮き上がった。プールの水面がさらに膨らみ、足元に丘のような曲線を描くが、そこまでだった。
「え……えっ!?」
(水が……足りない?)
子ジャクシに吸われて濃厚な粘液に変わったプールの中の液体は、水忍法で操れるだけの水分をほとんど残していなかった。背の高さほどには盛り上がっていた水面が、波が引くように元に戻っていく。前方へジャンプする体勢を整えていたハリケンブルーは、蹴り出す地面を失って前のめりに水面へ落下した。

「あっ!」
落ちたその場所にはコースロープがあり、ロープの上に折り重なるように胸を叩きつけてしまう。だが粘液の海に頭から突っ込むことだけは避けられた。
(水柱が……! でも、もうなんでもいいから……プールから出ないと……!)
ロープに抱きつくように掴まり、上半身だけを何とか水面から出している。ヌルヌルとした粘液プールの感覚、液面が揺れるたびに忍装束の内側で動き回る粘液塊の感触は堪え難いものになってきた。
「ゲロゲーロ、さぁどうする?」

行く手を阻む子ジャクシ達を掻き分け、ガマジャクシが居るのとは反対側のプールサイドを目指す。怪人に背を向けることには不安があったが、この状態で敵に向かっていくよりはましだった。
「あ……っ! うぅ……!」
ブーツの底が滑り、水の粘り気に逆らって歩くことができない。かといって卵がぎっしりと詰まったようになったプールの中をまともに泳いで行くこともできない。まるで川の上流に向かって進んでいるようだった。
(は、早く……上がらないと…… いけない……のにっ!)
たぷんたぷんと揺れる液面がマスクやバイザーを濡らし、視界に透明な膜を作ってゆっくりと垂れ落ちていく。必要な量の酸素が供給されて呼吸が確保されているはずのマスクが息苦しい。スーツの中で汗が吹き出し、アンダースーツの中にまで粘液が侵入してきたように感じてしまう。水の温度はひんやりとしたままだが、アンダースーツと忍装束の間に入り込んだ液体が生地に粘りついて外へ出ていかないため、自分の汗を含んだ生温い粘液がスーツの中で布地や肌にこすり合わされている。
「は……はぁっ! はぁっ!」
2本のコースロープを潜り抜けてようやく岸にたどり着き、後ろから撃たれないうちにとプールサイドへと這い上がる。十メートルかそこらの距離しかないというのに、粘液の中を歩いてきた手足はくたくたに疲れていて、運良くこちら側に設置されていた梯子を使わなければ水上に上がれなかった。

「はぁっ、はぁっ、はぁ……!」
(よ……よしっ、やっとこの……ドロドロから抜け出せたわ……)
プールサイドの端に膝をついた姿勢から立ち上がろうとしたが、体力の消耗は予想以上に激しく、身体全体がまるで地面へ吸い付けられたように重かった。
いつもプールで思う存分泳いた後、陸へ上がってしばらくは、水の浮力を受けて軽かった身体がその反動で重く感じてしまう。それはある種、快い疲労感でもあるのだが、今のこの身体の重さはただただ苦痛でしかなかった。体温までが急激に低下してしまったようで、このまま倒れ込んで眠ってしまいたいと思うほどの疲労が全身に渦巻いている。
「ん……んんっ……!」
脚をガクガクと震わせながら鉛のような身体を立たせようとする。青い忍装束の下半身、レオタード状に股に食い込んでいる部分とアンダースーツの隙間から、体温で温められた粘液が音を立てて染み出し、さらに、ピンポン球ほどの透明な卵までがそこからヌルリと押し出されて地面へ落ちた。下着のようなレオタードの中にまで粘液卵が入り込んでいたことに気付き、ハリケンブルーは生理的な嫌悪感に身を震わせる。
(そ、そんなことより……! ガマジャクシは……!?)
プールを隔て向こう側にいる、先程から何も動きを見せていない怪人の方へと振り向くと、その怪人が腕を交差させ、身体の前に紫色の電気のようなものを発生させるのが目に入った。

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2014-11-24

渇水(6)

ガマジャクシが両手を広げると同時にこちらへ飛んできた紫色の電光をかわすことも出来ずにハリケンブルーはそれを浴びた。目が光でくらみ、全身が一瞬びりびりと痺れて軽く硬直する。
「きゃあぁっ!」
その途端、地面へ倒れ込みそうだった上半身を支えていた両腕が急に身体の側へと引きつけられ、だが身体が前に倒れることはなく、逆に引き起こされるように真上へ持ち上げられた。
気付けば、両腕、そして胸のあたりに太い鎖がぐるぐると何重にも巻き付き、身体にきつく食い込んでいた。手は縛り付けられて動かせず、そうこうしているうちに足が地面に付かなくなるまで身体が宙に持ち上げられて、空中でじたばたと足を動かすしかできない。
「なっ、何これっ!」
古来の忍者が使う、鎖鎌で捕らえられたのに近かった。鎖鎌の分銅の代わりに、鎖の端には棘のついた大きな鉄球のようなものが取り付けられ、それが今はハリケンブルーの背中側にぶら下がっていた。
「宇宙忍法! ガマ砕きィ!」
ガマジャクシが腕を下から上へ勢いよく振りあげると、鎖に縛られたハリケンブルーの身体が十数メートルほど、ほぼ真上に高く舞い上がった。
青空に吸い込まれるように飛ばされたハリケンブルーだが、上空からの景色を楽しんでいる余裕などなかった。足元のはるか下で、プールの水面が日差しを反射してきらめくのを見た瞬間、背中にくくりつけられた鉄球が轟音と共に爆発した。

「あァあぁ〜〜っ!」
背中から重機で跳ね飛ばされたような衝撃と、爆風の熱気に包まれて、ハリケンブルーは一瞬気を失い、受け身の姿勢を取ることができずに墜落した。
プールの中央付近に、粘り気の強い水飛沫を立てて青色の身体が投げ込まれた。
「ぐぅっ!」
まるでカエルの卵だけをプール一杯に流し込んだような水の粘性をもってしても、空中落下の勢いを殺すことはできなかった。厚いコンクリート製の底に鈍い音を響かせて頭や腕が叩きつけられ、強制的に気絶から覚めさせられる。
身体中の骨や筋肉に鈍痛が走っている。重い粘液に満たされたプールの底で、手足を動かすたびスーツの中でぐちゅぐちゅと音を立てながらハリケンブルーは身体を丸めて痛みに耐えた。
「あっ……っは……! あうぅ……!」
身体を起こせるようになるまで暫くかかった後、コンクリートの上に横たわったままプールの外に目をやる。液の密度に濃淡があるために水中の視界が歪められ、プールの底から見上げる水上の風景は模様ガラスを通したようにぼやけている。
(こいつ、強い……! やっぱり私一人の力じゃ……!)
浸かっているだけで体力を奪われていくような粘液プールから、出ようとするたびに何度も引き戻され、今や這い上がる力も無くなるほどに追い詰められてしまっている。水中での戦いなら負けるはずがないと思っていたのに、今のこの状況は完全に相手の思う壺に嵌まったようなものだった。
(こうなったら、み……みんなを……!)
左手のハリケンジャイロを口元に引き寄せ、内蔵された通信機を作動させようとするが、通信を開始する時のいつもの独特の装置エフェクトが起こらなかった。
「まさか! 故障!?」
焦ったそのとき、頭上にさっと影がかかり、粘った泡音と共に飛び込んで来るものがあった。

味方などではなかった。水かきの付いた巨大な足の裏が視界いっぱいに広がり、マスクの後頭部がゴリゴリとプールの底に擦り付けられる。
「あ……うぁあっ!」
これまで陸上から攻撃を断続的に繰り返してきたガマジャクシが、ついに直接襲いかかってきたのだった。
「ゲロゲ〜ロ、そろそろとどめといくか」
プールの底に仰向けで横たわっていたハリケンブルーの頭、次いで胸の中央部を足で踏みにじり、容赦ない攻撃を仕掛ける。巨体の怪人に全体重を乗せてぐりぐりと踏み付けられ、水の浮力がある水中でなければ一撃で致命傷を負っていただろうという重量が上半身の狭い箇所にのし掛かっている。
(ま、まずい……! 水中でこいつと格闘したら……勝てない……!)
ガマジャクシが片足を上げた瞬間に必死で身体を横に反転させ、なんとか巨体の足の裏から逃れる。
この粘り気のある水中では起き上がることも普通にはできない。ヌルヌルしたコンクリートの底に手を付いてようやく身を起こし、頭上のコースロープを掴んで水上に頭を出した途端に、背後からガマジャクシに抱きつかれた。
「はぁあぁっ!」
そのまま体重を掛けて水中へと引きずり込まれる。変身状態であり、溺れるはずはない。だが本能的な恐怖にかられてハリケンブルーは夢中で水を掻き、上へ、水面へ出ようとする。
「ゲロゲロ、逃がさんぞォ」
背中や腕に密着したガマジャクシの体表は、両生類特有の粘液で覆われた皮膚と、機械のゴツゴツとした感触が入り混じったものだった。太い腕で身体と両腕を一纏めにして抱き締められ、シノビスーツ越しにとは言え不快な感触に鳥肌が立ちそうになってしまう。
「いやぁっ! あ、あぁっ! 放してっ!」
このような超近接距離の肉弾戦で、ハリケンブルーが怪人の腕力に勝てるわけがなかった。太くヌルヌルとした腕を首筋に巻き付けられ、叩いたり、ガマジャクシの足を蹴りつけたりするが、どうやっても外すことができない。
数秒間、全く呼吸ができない状態が続き、視界が暗くなりかけた後にもう一方の腕で片脚をすくい上げられ、背後からのし掛かるように水底に引き倒される。
「お……ぁはぁっ!」
無我夢中で怪人の抱擁から逃れようとするハリケンブルーの身体を、ガマジャクシはもう一度プールの底へ腹這いに押し付け、体重を乗せて激しく背中を踏み付ける。
「ごほぉっ!! ぉ……っ!」
潰れたカエルのような格好で、ハリケンブルーは肺の空気を吐き出して呻く。マスクの顎がプールの底にぶつかって鈍い音を立てた。背骨、胸骨が割れそうな痛みのために這って逃げることさえできず、敵の次の攻撃を待つしかない。そして、その横腹にガマジャクシの前蹴りが突き刺さった。

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