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2015-12-08

凍結騒動について

番組の途中ですがお知らせです。

ここ数日、FC2のR-18創作ブログが次々に凍結(公開停止)させられているそうで、正確な理由は分かりませんが、当サイトも元ネタが元ネタですのでいつ凍結されてもおかしくないと思っています。
小説やその他のブログ記事データはすべてテキストファイルで保存しましたので、別サイトで公開しようと思えばできる状態になっています。なお、頂いたコメントもすべて保存してあります。

もしここが凍結された場合はTwitterやpixivなどでお会いしましょう。



12月下旬追記
騒動は結局、運営側のミスによるものだったそうで、一度凍結されたブログもほぼすべて元に戻ったようですね。
これをきっかけに他のブログサービスに乗り換えたサイトもあったとのことですが、当サイトはしばらくはこのまま行きます。
2015-12-30

泥浴(3)

エレベーターが1階で停止し、ヨーコはまだ噛み潰さず口に含んでいたグミキャンディを飲み込んでマスクの用意をした。
「はいっ、準備完了です」
そう言ってイエローバスターのマスク、図案化されたウサギの目鼻とサングラスがあしらわれた黄色のヘルメットを装着する。
首から上が軽合金製のマスクに収められ、全身が気密装備の中に覆われると、さっき口に入れたグミの甘い香りがマスクの中に立ち込めた気がした。汗の匂いがするよりはずっと良いが、もしかして髪の毛か口の周りにでもお菓子が付いたままになって…… と考えると、装着をやり直した方がいいのではと一瞬迷う。
しかしエレベーターを一歩下りるとそこは本当にすぐ屋外ステージ、カーテンを隔てて観客の子供の歓声が聞こえてくる場所だった。
「それではみんな、大きな声で呼んでみましょう! 『イエローバスター』!」
司会役の若い女性がマイクを通して子供達に呼びかけている。
「もう始まっちゃってますね。いけますか?」
脇から囁いてくる企画部長の声に、少々焦りつつ返事をする。
「ええ、大丈夫そうです。行ってきますね」

「イエローバスターー!」
一斉に叫ぶ子供達の声に乗っかるようにして、自慢の脚力を活かして黒いカーテンの陰から飛び出し、10メートルほどの横幅がある舞台の中央にタンと軽く着地する。
(まずは、挨拶……!)
観客席の大声に負けないように、と深く息を吸い込んだ瞬間、先程からまだマスク内部に残っていた甘い香りが口と呼吸器いっぱいに広がって、ステージ上にお菓子か果物でも積み上げてあるかのような錯覚を覚えた。
「……はーいみんな、こんにちは〜!」
一瞬の戸惑いのせいで、いかにもステージ慣れしていない素人のパフォーマンスのような間が生まれてしまう。しかし本物のスーパーヒーローが現れて、子供達の反応は上々だった。わーっ、キャーという歓声がどっと押し寄せてきて、客席とステージの距離にもかかわらずスーツの表面がびりびりと振動するような感覚があった。
親や大人も含めて100名ほどの満員の観客席に向かって、イエローバスターは軽く一礼する。
(よーし! あとはこのまま、とちらず行くだけね)
最初に少し身体を動かしたおかげで、人前に立つゆえの緊張はなかった。台本もちゃんと覚えている。ただ、どうしても例の香り、濃厚なフルーツの香気がいつまで経ってもマスクの中に充満したままなのが気にかかってしまう。マスクの外側には何か付着していないかと、顎のあたりをグローブの手でさりげなく撫でてみるが、やはり外側には何もない。
「今日は『わたしたちのエネルギー』の展示を見に来てくれてありがとう! 博物館、おもしろかった?」
はーい、という、子供特有の怒鳴るような返事が返ってくる。今まで色々なアトラクションで見てきた雰囲気そのままだ。
さっきマスクを触ったグローブの指には何もベトベトするようなものは付いていない。しかし何か手応えには違和感があった。身体の脇で手のひらをぐっぐっと握りしめてみるとその原因が分かった。グローブの内側が汗で湿ったような、微妙な動かしづらさがある。
(緊張する、っていうのはこういうことなのかな……?)
自分では緊張していないつもりでも、無意識のうちに手汗をかいていたり、足が震えていたりすることがある。そのせいかと思った。だがこの場以上に緊張を強いられるこれまでの戦いの場面で、グローブの中にここまでの汗をかいて指の感覚が鈍るなどという経験はしたことがない。何かがおかしい、そんな疑念が頭をもたげ始めた。

一度気になり始めるとどうしてもそちらに注意が逸れてしまう。引いていかない汗のせいで肌に張り付いているスーツの裏地。特にイエローのレザージャケットの下の胸や背中、黒いレザーパンツに包まれた尻や内股といった部分は、ただ汗で濡れているだけではない感触で裏地素材が纏わり付いている。講義のセリフに集中しなければいけないのに、装備のことばかり気になって、まるで敵に狙われている時のような精神状態で、口調も硬くなってしまいそうだ。
「このコーナーではこの画面を見ながらエネルギーの歴史についておさらいをしていきます。はいっ」
くるりと後ろを振り返り、舞台に吊り下げられた黒板大のタッチパネルの端を手でポンとタッチすると、太陽と地球、地球の表面に密集したビルやタワーといったイラストが現れた。
「わたしたちが住んでいるこの地球には、昔から……」
講義はようやく本題に入ったばかりだが、イエローバスターは早くも、とにかく時間通りに終わらせなきゃ、という焦りに支配され始めていた。タッチパネル操作のために身体を大きく動かし、息を吸い込むと、それにつれて甘いフルーツの香りが強く濃くなっていく。ステージにはそんなものの存在を思わせる小道具も売店もないのに、イエローバスターのスーツの中にだけ甘くとろけるようなフレーバーが充満して、そこから逃れることができない。
開始前に食べたグミキャンディの味を思い出してみる。しかしそれとは少し違う、マンゴーやパパイヤ、パッションフルーツ…… といった南国の果物、もっと生のフルーツに近い香りがマスクの中に、いやスーツの内側全体に広がっている気がする。
「太陽は、こんな風に……っ……」
腕をぐっと上に伸ばすと、スーツの首元、胸元から生々しいトロピカルフルーツの匂いが立ち上ってきて、非現実的なほどの香気に頭がくらくらとした。マスクの中ではなく、明らかに首より下からだった。反射的に頭に思い浮かんだのは、グラスの縁に南国の花を飾った、黄色いトロピカルフルーツのデザート…… カットフルーツやゼリーのような……

次へ
2015-12-31

泥浴(4)

そこで、あっと声を挙げそうになった。なぜ今まで思い出さなかったのだろう。たった2時間ほど前に倒した怪人、ゼリーロイドの能力がこの異変と直接に関連しているのでは、という可能性を全く考えていなかった。
ゼリーロイドが噴射していた液体ゼリーの素は、ゴーバスターズの足を滑らせるためのトラップでしかないと思っていたために、今の甘いデザートの香りとそれが結びついていなかった。だがゼリーでコーティングされた道路や階段をグローブ越しに手やひじで触った時の感覚は、今自分がスーツの内側で感じている物と通ずるものがあった。

汗ではなく、ゼリーがスーツの内面に塗り広げられている図を想像すると思わず叫び出しそうだった。スーツの表の面と同じような、明るいイエローのゼリー層が内側にも均一に塗りたくられている。しかもそれが自分の体温によって部分的に溶け、粘っこいジュースとなって、もちろんそれはスーツの外に出ていくことなくシンセティックレザーの生地と身体の間を満たし続けている…… しかし、そのイメージは残酷なまでに実際のスーツの着用感と完全に一致してしまっていた。
「あっ、あの……」
あやうく講義を中断しそうになったが、イベント終了までに説明しなければいけない内容、あと数分間のセリフの内容をざっと思い返して、とにかくその数分間だけはやり過ごそうと考える。ゼリーのヌメヌメした感触、甘ったるい香りは確かに不快だが、数分間我慢できないというほどのものではない。ここさえ乗り切れば次のコーナーへの切り替えのときに何とか対策することができる。
体温上昇によって溶けたゼリーがブーツの中に溜まり、歩くたびグジュリと音を立て始めたのに気付きながら、イエローバスターは講義を続行することにした。

「そして……ここで作られた電気が……」
スーツ内部の異変をはっきりと意識したためというだけではなく、ゼリーは明らかに加速度的に量を増していた。上半身も下半身も、恐らくは厚さ1センチほどの半液体のゼリーの層がスーツの裏地に構成され、ただでさえ厚みのあるレザー生地のバスタースーツをウェットスーツのような重量と拘束感に変えていた。
いや、拘束感に関しては他のどんな服にも例えようのないものだった。生地の引き攣りや抵抗を極限まで減らした造りのスーツの、内部だけが今のように変えられてしまっているせいで、結果としてゼリーの層だけが人間の形をして全身に満遍なく纏わり付いているのに近い状態になっている。身体をねっとりとした液体の塊に拘束されているような、されていないような、身体が重いのに同時に低重力状態でもあるような奇妙な浮遊感の中に置かれている。さらに加えて、甘いフルーツの香りが常に頭を取り巻いているのだった。
そんな状態でステージを歩き回り、タッチパネルを操作し、一人でずっと喋り続けなければならない。グローブの内装にもこってりとしたゼリーの膜は張っており、画面を触っても直接にスクリーンの感覚が伝わってこない。タッチの精度も悪くなっているようだ。
当然ながら、黄色いブーツの中は溶けたゼリーが溜まって最悪の状態になっていた。一歩歩くたびにじゅぶじゅぶ、くちゅくちゅとう音がスーツ中に満ち、自分の台詞さえ聞き取り辛くしている。スーツの中で溶けた黄色いゼリーがブーツの履き口や隙間から溢れ出しているような気がしてふと足元を見るが、残念ながら完全に気密を保ったままのバスタースーツから液体が漏れることはなかった。
「この…… 町じゅうに…… 町の、どこにいても……」
ステージの幅一杯のスクリーンを左右に行き来しながら、明らかにふらふらとした足取りになっているイエローバスターは観客席に視線を向ける。勉強の話に退屈した子供の姿はあっても、イエローバスター自身の異変には気付いている様子はなさそうだ、ともう。しかしそう思っているのは本人だけで、とりわけ舞台裏で見ているスタッフはその妙なぎこちなさを先程から不審がっていた。
「宇佐見さん、ちょっと何か……」
しかしそれでも流石に、イエローバスターが敵の攻撃を受けて……という発想には至らない。緊張と気疲れが公演の後半に一度に出てきたのではないか、という心配だった。

「そ、それから……この…… さい、最後に……!」
ジャケットやグローブの内側がじゅくじゅくとした泡立つ粘液に満たされている。タッチパネルを操作するために両腕を動かすと、胸や脇腹の敏感な部分が液体と固体のゼリー混合物で掻き撫でられ、その場にしゃがみ込みたくなるような感触を送り込んでくる。
広い画面のあちこちに浮かんだ青と緑のアイコンを両手でのろのろとタッチしていく。手も足も、少しでも動かすたびに人肌温度のゼリーによって全方向から素肌の上をヌルヌルと撫で回されて、なかば自分の意志で自分を深みに追い込んでいるに近い。
(あっ、あ……あぁ……)
イエローバスター、ヨーコはもうゼリー風呂の中に立ったまま浮かんでいるような感覚に捉えられたままマスク越しに外の世界を眺めていた。
(い、息が…… 空気が……)
せめて、マスクだけでも外して外の空気と繋がりたい。一呼吸だけでもいいからこのフルーツゼリーの匂いから逃れて正常な思考力を取り戻したい。あともう少しでこの解説を終えれば舞台裏に隠れられる。そう思って最後の数十秒をやり過ごそうとする。

「という……わけで……!」
画面最上部に浮かんだ太陽をタッチすれば画面が切り替わって、「おしまい」のメッセージが出るはずなのだ。しかし、その一操作のハードルが余りにも高い。
イエローバスターの身長では簡単に手が届かないくらいの場所に目的のアイコンが浮かんでいる。公演の初めごろは背伸びをしたり、軽くジャンプしたりして押していたあたりの場所だが、今は背筋をまっすぐ伸ばすことすら辛く、手でその位置に触れられる気がしない。
(あ、あとひとタッチだけなのに……)
思わず膝がぐらついて、中腰に近い姿勢になってしまう。脚が震えている。ここからほんの少し跳んで、とにかく画面上端をタッチすれば、と最後の力を振り絞ろうとするが、このゼリーに漬かった状態のスーツでそんなことをすれば着地で大失敗をしかねない。スクリーンに軽く片手を付き、何とか体勢を直立に近い状態に持っていって、そこからスクリーンにしがみ付くようにしてようやく右手をそろそろと上へ挙げていく。
(う……うっ……!)
グローブの中やジャケット前腕部あたりで溶けて溜まったゼリー液がじゅるじゅると音を立てながら腕を滑り落ち、脇腹や胸に流れ込む。意識に一瞬の空白ができ、一体自分が自分が何をしているのかを忘れそうになる。
左手を画面に添え、身体をやや斜めに伸ばし、そのまま、震える両足を爪先立ちの形に……
「あ……あぁ……っ……!」
そこでイエローバスターの気力と体力は限界を迎えた。背伸びした身体の前面をタッチスクリーンに擦り付けて、まるで正面から壁に叩き付けられたようなポーズでズルズルと崩れ落ちていく。

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