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2016-02-20

泥浴(6)

舞台裏に引っ込んだイエローバスター・ヨーコは、ゼリーの感触からは解放されないものの、ようやく一息つけたことで少し持ち直し、椅子に腰かけて休んでいた。
「おいおいヨーコ、よりによってこんな時に『充電切れ』かい~? だから栄養補給はしっかりって朝も言ったのに……」
「ち、違うの! 違うんだって……!」
それでもまだ頭が混乱していて、本当は真っ先に仲間に相談すべき今の異状をどうやって説明すればいいものか考えつかない。せっかくのイベントを直接的には自分が台無しにしてしまい、ゴーバスターズの皆にも迷惑をかけてしまったという自己嫌悪がまず先に来て、そして一刻も早くスーツを脱ぎたいという切迫感にも背中を押されて、ごめんなさい、ごめんなさいと言いながら夢中で楽屋を駆け出していく。

楽屋裏から博物館の管理棟へ駆け込み、モーフィングを、変身を解除しようと人目に付かない場所を探す。しかし真っ直ぐな廊下の両側にはドアを開けられそうな部屋はなく、身を隠せるようなスペースは一つも見当たらなかった。
(は、早く…… どこかで……!)
今すぐにでもゼリーの感触と甘い匂いから逃れたい、しかしうかつにスーツを解除したり、マスクだけでも外したりすれば内部のゼリーが零れ落ちて床一杯に広がりそうな気がして、じゅぶじゅぶとブーツを鳴らしながら真っ白な廊下を走り抜ける。全身を満遍なくゼリーに愛撫される感触は、無心に走っていれば逆に今だけは忘れることができた。突き当りの角を曲がり、酸欠状態ではあはあと息を弾ませながら、さらにその先で行き当った半透明のドアを押し開けた。


そこは建物の外に通じる扉で、幅の広い階段となだらかなスロープが博物館の駐車場に向かって続いていた。
(外……! で、でも……誰もいない……!)
ここでマスクだけでも解除して、と側頭部に手で触れた瞬間、パチパチと拍手する音が上から降ってきた。
「トレビアン、そして、ブラヴォー……」
気取った口調で、大きな螺旋状の非常階段をゆっくりと降りながら現われたのは、黒い衣装に特徴的なゴーグルで表情を隠した長身の男、ヴァグラスの第一の幹部・エンターだった。
「いやぁ、まったく素晴らしいステージでしたよ、イエローバスター」
「エンター……! やっぱり……あんた達の仕業だったのね!」
あのステージをエンターに一部始終見られていたのかと思うと怒りや恥ずかしさが一気にこみ上げてきたが、スーツをまだ脱ぐことが出来ないのかという焦りもあって、イエローバスターは敵に向かい合いながら一歩後ずさりする。
「プライドの高い貴方なら、きっと最後までやり切ってくれると思っていましたよ。まさかモーフィングを解除しないまま会場に向かうとは予想しませんでしたが……、おかげで、想像していたよりずっと面白いステージになりました……」
そこでくっくっくと楽し気に笑って、エンターはゴーグルを上げてにやついた顔を晒した。
「お子様方にも、さぞ良い教育効果があったのでは?」
「だ……っ、黙りなさい……っ!」
今のこの状態で1対1で戦って勝てるはずがないことを忘れて、ソウガンブレードを構えようとするイエローバスター。エンターはそれを制して、いつの間に手に持っていたのか、小さなカクテルグラスを目線の高さに示して見せ付ける。
「流石、大した元気ですね。スーツの中はこんな事になっていると言うのに」
カクテルグラスには濃いレモンイエローのゼリーが満たされ、それも完全なゼリー状には固まり切らずに、エンターがグラスを少し揺らすと半液体の中身がぷるぷると震えて波打った。
「……っ!」
ゼリーの揺れにつれてスーツの中が同時に掻き回されるような錯覚にイエローバスターは武器を持ったままでスーツの胸元を押さえてしまう。しかしそれはやはり錯覚に過ぎなかった。
「それでは…… おっと、邪魔が入り…… いや、フフッ、邪魔ではありませんね」
階段の中二階からイエローバスターを見下ろす位置に居たエンターは、ふと横に視線をやって、面白いものを見つけたとでも言う表情をする。
博物館での見学コースを終えた、子供を中心とした団体客がこの駐車場スペースに近づいてくる声が聞こえてきた。
「観客の皆様ですよ、イエローバスター」
そう言ってエンターは手にしていたゼリー入りのカクテルグラスをイエローバスターの足元に向かって放り投げる。薄いガラスが地面に落ちて砕けると共に、黄色いゼリーが爆発的に量を増し、建物から外へと延びる緩やかな階段を黄色い絨毯のように覆った。ゼリーロイドの攻撃と同じだ、と思った瞬間、さらに量を増したゼリーに足を取られ、イエローバスターは厚いゼリーの絨毯の上に倒れ込んで階段を滑り落ちた。

「あ……っ! あぁ……!」
ゼリーの表面は固まり切っていないにも関わらず、滑らかで摩擦というものを全く感じさせなかった。柔らかく、スポンジのように手応えなく肘や膝が沈み込み、身を起こせない。
顔面からゼリー絨毯の上に倒れ込み、手を着いて起き上がろうとしてもまたその掌が滑らされ、半透明の黄色いゼリーの上でイエローバスターは甘い匂いに包まれて何度も転げ回らされた。
「さあ…… 第二幕です。子供達にゴーバスターズの魅力をアピールする、絶好のチャンスですよ、アハハハハッ!」

(完)
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