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2016-06-16

衝突

前からTXTやHTMLで途中公開していた「衝突」を、いつものブログ記事形式で掲載していくことにしました。
こちらからどうぞ。

あらすじ:仲間を置いて独りバイクで事件現場へ向かったホウオウレンジャーは雨の山道で転倒事故を起こし、ダイレンジャーの存在を知らない警官から不審者として取り調べを受ける。

そもそもなぜ別ファイルにしていたかと考えたら「窮鳥」と同時進行で書いていたためで、「窮鳥」の方が完成したのでこちらは普通に連載していきます。
肝心の事情聴取・取り調べが始まるまでで難航していましたが、ここからお楽しみのシーンとなります。この前の「泥浴」よりもさらに性的要素を控えてスーツフェチを追求していく予定ですのでご期待ください。
2016-06-16

衝突(1)

深夜の東京郊外。県境の山の方面へ向かう道路を高速で駆け抜ける機体があった。
一見しての形状は中型から大型のバイクといったところで、シートにも操縦者が一人跨っていたが、機体の各所を明るいピンクや金の装飾で覆ったSFメカのようなデザインは周囲の風景からするとあまりに場違いで、疎らな街灯に照らされるたび景色から浮き上がるように映った。
そしてその操縦者もバイクと同様、随分と目立つ外見をしていた。ピンクと白の、機体と同じ配色のライダースーツとヘルメットを着用しているように見える。しかしそれらは一般的な製品よりずっと身体にぴったりと密着した、明らかに薄手の素材で出来ていて、転倒時に着用者の身を守るという役割は普通なら果たせそうになかった。
薄いスーツが張り付いて強調された、胸の膨らみや肩から腰にかけてのボディラインは、スーツの色合いとも合わさって、そのバイクの主が若い女性であることを示していた。



五星戦隊ダイレンジャーの一員、ホウオウレンジャー・天風星リンは興奮と少しの混乱を抑えられないままに自分のキバーマシンを走らせていた。
数日前からの事件を解決する鍵は絶対にあの山にあるはずだった。昼過ぎから仲間達と集まって行った捜索にリン以外の4人はみな気が入らない様子で、誰からともなくもう明日にしようという声が上がって夕方には街へ戻ってきてしまったのだが、どうしても気になる場所はいくつか残っていた。
(みんな自分の用事ばっかり優先して…… もう少しの所だったのに……)
その日一度は寝床に入ったものの、眠気がやってくる気配が全くなかった。結局24時を回ってから自宅を抜け出し、仲間には連絡もせず独りホウオウレンジャーに転身してキバーマシンで目的地へ向かったのだった。
「絶対に見つけてみせる、私一人でも!」
ゴーマの企みを許せないという感情や、なぜか今回に限ってやる気の感じられない仲間達への苛立ちもある。だが、自分だけで事件を解決してみせるという功名心のようなものもあった。一人でこっそりと捜索すれば敵怪人や戦闘員に勘付かれる心配はかえって少なく、単独行動を取ることに何の危険もない、等と考えながら、途中からでも仲間を呼ぶという選択肢を断った。

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2016-06-16

衝突(2)

予想していた通り、深夜の国道には車も人影もほとんど無かった。照明を最小限に抑え、とにかく目立たず目的地へ、と一直線に山を目指す。肝心のマシンや自分のスーツがどうしても人目を惹く色と見た目であることには、冷静さを欠いていて思い至らなかった。
しかし、行程が山道へ近付いた頃に折悪しく雨が降り始め、それをきっかけに自分の装備や外見のことにようやく気付かされることになった。
キバーマシンに乗っているときに雨に降られたのは初めてだった。もちろん水濡れを気にするようなマシンではない。ダイレンジャーのスーツやマスクも、身体能力強化と共に撥水性や保温性といった性能はいわゆるライダースーツと比べて段違いに上で、時速百km以上のスピードで雨の中を走り続けていてもスーツ内部を快適な状態に保ってくれている。ただし、降りかかる雨でシートが濡れ、摩擦抵抗のない光沢生地に包まれた尻や太腿がカーブのたびにヌルヌルと横滑りすることはどうしても意識せざるを得ない。
真夏の日中に、直射日光を浴びて熱くなったマシンに腰を下ろす時にも気にしたことがあったが、尻というよりも局部を含めた部分をこうしてシートに押し付けて跨ることには少々の抵抗があった。
「止まない…… でももうここまで来たら、行くしかないわね」
どんどんと強くなっていく雨風を胸やマスクの前面でバチバチと浴びながら、ハンドルを握るグローブの掌、ペダル類を操作するブーツの足裏が滑ってしまうことがないように手足の位置を微調整する。あとはぬかるんだ路面のスリップだけに気を付ければいいはずだったが……

そうこうしている内に周囲から人家の気配がなくなり、道路が蛇行し始めた。
目的の場所は地図には記載されていないが道順だけは記憶に残っている。今のこの道をもう少し進み、三つ連続したトンネルを抜けると、目的地に通じる目立たない脇道があるはずだった。そろそろトンネルが現れるという時、前方で赤とオレンジ色の明かりが点滅しているのに気付き、ホウオウレンジャーはマシンの速度を落としてゆっくりと進んだ。
最初、他の車両が停まっているのかと思ったが、車ではなかった。内部照明が消えて黒い影の塊となったトンネルの入り口を金網フェンスやコーンが横に塞ぎ、鎖状に連なった非常灯が結わえ付けられてばらばらに点滅している。さらに、『通行禁止』『工事中』といった縦長の看板が数枚。
「工事……?」
半日前にここを通った時にはこんな封鎖や看板は無かったはずだ。道を間違えたわけでもない。ゴーマが無関係の人間をここに立ち入らせないように慌てて拵えたものではないか、という疑念が直感的に浮かんだ。
「怪しいわ……」
マシンを降り、警告表示の群れに近付く。雨の勢いはますます強くなっており、水滴の降りかかるマスクの内側が独特の音響に満たされている。
工事中の表示にも関わらず作業員らしき人間、機材はなく、金網越しにトンネルの中に目を凝らしても闇が深く満たされているだけだった。この道路封鎖がゴーマの仕業であることは間違いないと結論し、ホウオウレンジャーはマシンの元へ戻る。
シャワーを浴びるような大粒の雨に打たれ、マシンも自分自身もスーツ表面はずぶ濡れのはずだったが、水の浸み込まないスーツの着用感は奇妙な感覚だった。座席に跨り直すと尻の下でシート部分がぐちゅりと音を立てるが、内股で機体を挟み込んで身体をしっかりと固定させる。マシンを発進させ、その場で方向転換して元来た方向へ数十メートルほど戻る。そしてスピードを落とさず、逆に加速しながら大きく旋回して、フェンスで封鎖されたトンネルに向かって進んだ。
「はぁっ!」
障害物に突っ込む直前でマシンを跳躍させて、背の高さほどのフェンスを飛び越える。そしてそのままの勢いで暗いトンネルの中へ進入していった。

予想通りというべきか、トンネル内部で工事などは行われておらず、照明が消えている以外は何の変哲もない路面があるだけだった。
(やっぱり……)
機体から発する光だけで前方視野にも不自由はない。逆に、雨が降りかかってこない分トンネル内の方が安全とも言えた。戦闘員の襲撃や罠などが気にならないでもなかったが、短いトンネルをあっという間に通過し、次のトンネルの入り口には黄色いバリケートが一つ置いてあるだけなのを見て、安心して軽くそれを飛び越える。
(何もないみたいね)
暗く静かなトンネル内に自分のマシンの駆動音だけが響くのを心地良く感じながら、ホウオウレンジャーはスピードを一気に上げて二つ目のトンネルを抜け出した。 そして三つ目、最終のトンネルに飛び込み、内部の大きな左カーブを、機体を傾けながら高速で駆け抜けた。

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2016-06-16

衝突(3)

カーブの終わりと共に現れたトンネル出口の向こうから、唐突な赤とオレンジ色の光がホウオウレンジャーの視界を射た。
「!」
しばらく見なかった通行禁止表示の出現が突然に感じられた。そして雨の中で点滅回転する光の群れが先程のような非常灯だけではなく、警察車両らしき車のライトがその中に混じっていることを脳が認識して、まずい、と反射的に手が制動動作に移った。
だがマシンは最高速度に向けて加速する途中だった。トンネルを抜けた時に前輪がやや浮き上がり、制御不能になりかけるのを強引に元に戻したものの、機体はほとんど減速せずに前方へ突っ込んでいった。
「あ……あっ!!」
路面に置かれたバリケードのいくつかを蹴散らし、回転灯を灯したパトカーの横を通り抜けて、記憶にはなかった第四のトンネルに向かって進んでいく。
減速が間に合わない。そして、前方のトンネルは高く積み上げられた土嚢と金属の骨組みで完全に封鎖されて、飛び越えて進むこともできそうになかった。
「うあぁああぁっ!」
正面衝突だけはまずい、と反射的に大きくハンドルを切って横へ逸れようとする。だが駄目だった。凸凹の付いた路面を前輪がえぐるような感覚が一瞬あって、走行速度そのままのスピードで身体がマシンから横倒しに投げ出され、地面に叩き付けられた。
落下の一瞬、キバーマシンが中央から真っ二つに折れたのではないかという想像が浮かび、直後の衝撃に一瞬意識が飛んだ。
そして次に気付いたのは濡れたアスファルトの地面を自分の身体が滑走していく途中だった。マスクの側頭部が固い路面上でガリガリと音を立て、腰から下が激しく摩擦されて熱を感じる。ちょうど目の前にピンク色の機体が横倒しになって自分と等速度で引きずられていくのを捉えた時、転倒時を上回る衝撃が全身に走った。
トンネルの入り口脇、煉瓦模様の刻まれた分厚い石造りの壁面にホウオウレンジャーは背面から叩き付けられていた。

「……っ、ぉ……!」
衝撃を吸収するものが何もない岩石の塊に身体が衝突し、跳ね返ることさえできずめり込むような勢いで壁に張り付けられる。辺りに低く重い音が響いたが、それはマシンが離れた場所で土嚢の山に突き刺さる音で掻き消された。
今までどんな敵からも受けたことのない重い打撃。生身であれば即死どころか身体がぐちゃぐちゃに潰れていたかも知れない勢いだった。
(く、首から……当たっ……!)
頭蓋骨とその内側、背中から肩へ深く響き渡る激痛に声も出せず口をぱくぱくと開閉する。横隔膜が痙攣し、息を吸い込めない。急所に受けたダメージの程度が自分ではわからず、頸椎、延髄、損傷といった言葉を思い浮かべながら身体を小刻みに震わせるしかない。
だがスーツとマスクは流石の衝撃吸収能を発揮していた。両手で頭を抑えて、気絶も麻痺もなく痛みに悶えていられるのは致命的な怪我を負っていない証拠だった。
「ぁ……、おぉ……っ」
それでも、しばらくはその場から動くことができない。胎児のように身体を丸めた姿勢で、小刻みに痙攣しながら痛みの余韻をこらえる。首も頭も、その他の部分にも骨折や出血のないことがようやく自覚できてから、そろそろと身体の硬直を解いた。
痛み以外の感覚が徐々に身体に取り戻されてくる。大粒の雨が依然として降り続き、横向きに倒れたホウオウレンジャーの全身をスーツ越しに濡らしていた。

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2016-06-16

衝突(4)

「お…… お~い! 大丈夫か?」
中年の男と思われる声が、浅い川のようになった地面を踏み分ける音と共に近付いてくる。大型の懐中電灯を下げ、レインコートを被った人影は、先程停まっていたパトカーに乗っていた警官のようだった。
(大丈夫…… なのかな……)
ホウオウレンジャー・リンは今になって、なぜあの時パトカーを見て反射的に逃げるような行動を取ってしまったのかと自問自答する。
人に見られてはいけないことをしている、という意識がどこかにあったのかも知れない。仲間を無視して勝手に捜索に向かったことにまず少しの後ろめたさがあったが、それは警察に知られてまずい種類のことではないはずだった。悪と戦う集団とはいえ、ダイレンジャーは警察組織のもとで動いているわけではない。
しかし考えてみれば、そもそも自分たちの戦隊と警察の関係についてこれまで深く気にしたことがなかった。確か嘉挧の言葉によれば、ダイレンジャーは警察その他の機関から見て「居ないことになっている」に近い扱いにあり、特にゴーマが現れた時に警察の人間が手出しをすることはどんな状況であっても無いということだった。それはこれまでの戦いでずっとその通りであり、逆にダイレンジャーとして警察の力を期待することも決してなかったため、存在自体をほとんど忘れてしまっていた。
(別に……隠れる必要はなかったはずよね)
だがこのような形で警察関係者と偶然の鉢合わせをするのは全く初めてのことで、どんな態度で接すればいいのか全く勝手が分からなかった。
「だ、大丈夫……です」
水溜りの中に肘をつき、背中や足腰をはじめ全身が痛むのをおして立とうとする。
「おっ……おいっ、無理するなよ!」
そばまで来ていた警官が驚いた声を出して駆け寄ってくる。高速走行していたバイクから投げ出された人間が自力で立てる状態だとは思っていなかったようだった。

壁に片手を付き、立ち上がる。数十メートル離れたパトカーや通行禁止標識の赤いランプが雨の中で点滅しているのが、がっしりとした体格の警官の肩越しに見えた。
ピンク色のスーツと、バイク用のヘルメットとは明らかに違う形状のマスクを懐中電灯で照らしながら、警官はあっけに取られたような表情で尋ねた。
「怪我は?」
「いえ、怪我は多分、ありません……」
「えぇ? 今の事故で……」
重傷を負ってはいないことが分かると、相手の口調が急に険しくなった。
「どっから入ってきたんだ?」
「あの………三つ前のトンネルから……」
「トンネルから、じゃないだろ! 山の登り口からこっちは全面通行止めにしてあっただろ!」
最初のトンネル入り口で見た厳重なバリケードの風景を思い出す。
「つ……通行止め、というのは……」
「通行止めだよ! 落石事故! 東京側からあちこちに書いてあっただろ、字が読めないのか?」
警官は苛立った様子だった。言われてみれば、トンネルに差し掛かる前にもそれらしき警告や封鎖の様子を目にした気がする。だが急ぐあまり何度も車道を逸れて近道をしたために、警告表示をすべて見過ごしてしまったようだ。
「そんな、それじゃ……」
ゴーマが関わっているかどうかは別にして、当日に事故があったこと、そのために道路が封鎖されたことは全くの事実だった。自分はそれを勝手に無視してトンネルに入り込み、もし他人を巻き込んでいれば死亡の可能性もある事故を起こしてしまった。

(そうだ……キバーマシンは……!)
トンネルの入り口中央、警官に向かって左真横の位置で土嚢に半分埋もれ、倒れたまま反応しないマシンの方へ駆け寄るように一歩踏み出す。
「おいっ! 危ない!」
後ろからぐいと右腕を掴まれ、そのとき肩の関節に走った激しい痛みにリンは思わず声を上げた。
「ひううっ!」
トンネル壁面に叩き付けられた時、骨折までは行かないものの、深く息をするたびに痛みが来るほどの打撲を背中から肩に負っていたのだった。負傷した肩を捩じりあげられるような角度で引っ張られ、スーツで守られているはずの身体が悲鳴を上げた。
「あぁっ、悪い……!」
「いえ……大丈夫、です…… ちょっとだけ……」
警官がすぐ手を放したため、痛みでうずくまるようなことは免れた。しかし、今の痛み方から右腕がもう戦闘にはほとんど使えない状態であることが分かった。それまで、肩の負傷のことに薄々気付いてはいながら、それを意識することから逃げていたに近い。もしも今ここでゴーマが現れたら、マシンが壊れて自分ひとりでは帰れないことになったら、ということを考えるのが不安だったのだ。
「ガソリンとか、漏れてるかも知れないだろ」
「えっ、ガソリン……? いえ、その……」
キバーマシンの動力にガソリンは使われておらず、今はとにかくマシンが正常に動き出せるかを一刻も早く知りたかった。しかし、警官を振り切ってマシンの様子を確かめるのは憚られた。
「なあ、それから、その服……」
「は、はい」
服、と言われてホウオウレンジャー・リンは違和感を覚えた。最初のやり取りから薄々感じていたことだが、どうやらこの警官はダイレンジャーの存在自体を知らないらしいということが分かってきた。
「いやまず、屋根の下に行こうか。バイクは後回し」
全く弱まる気配のない雨の中に立ち尽くしていた二人は、トンネルの入り口付近、封鎖地点の手前に雨宿りできる程度のスペースが確保された場所に移動した。

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2016-06-25

衝突(5)

「いやあ、ひどい雨だわ」
横から激しく吹き付ける風のため、警官の紺色のレインコートには首や袖口から雨が振り込んで、下の制服まで相当に濡れてしまっているようだった。下半身も、長靴は履いているが腰から膝にかけてズボンがずぶ濡れになっている。リンは騒動の原因である自分だけが防水透湿のスーツで雨や湿気から守られていることに申し訳なさを感じた。

銀色の光を放つ大型の投光器が頭上に吊るされ、ホウオウレンジャーの姿のリンはちょうどその光を直接浴びる位置に居た。深夜のトンネル内で唯一の光源に至近距離から照らされ、雨を浴びた後のピンクと白のスーツはいつもに増して光沢が強調されて見えた。
「何着てるんだ、その服? そのツナギ……」
「『繋ぎ』……?」
「ライダースーツっていうのか? ずいぶん薄いなこれは」
警官は、さっき後ろから手を掴んだ時のように無遠慮な手付きでホウオウレンジャー、リンの肘のあたりを掴み、ピンク色の被膜が肌に張り付いた腕を摩った。そして、細く柔らかいが引き締まった筋肉の付いた腕の感触が気になったか、半袖を重ね着したようなデザインのスーツの肩口から二の腕までを、その硬さを確かめるように二、三度ゆっくりと握る。
その接触行為に好色な目的があることは、腕を掴むついでにその内側の柔らかい部分を指の腹で撫でるような動きを繰り返すこと、それに白いスーツを押し上げる胸の膨らみに向ける視線からほぼ間違いなかったが、今はそれに文句を言える立場ではなかった。
「プロテクターとか外れたのか?」
あの転倒事故で衣服が全く破れていないということが警官にはやはり信じられないようだった。多くは革や分厚い化繊でできているライダースーツとは違う、ピンクの密着スーツがその表面で雨水を弾くのを見て、そして同様にヘルメットとは思えない薄そうなマスクにも罅どころか傷ひとつ付いていないのを不思議そうに眺める。
「いえ、丈夫なスーツですから……」
外側からは着用者の顔をほとんど伺うことのできないマスクをじっと覗き込まれ、またスーツの各所に懐中電灯を向けられて、リンは直接の仲間でも敵でもない人物にじろじろと観察されることに一種の気恥ずかしさを覚えた。

「それであの…… 私は……」
そろそろ自分の正体をはっきりさせておかなければいけない、とリンは戦隊の名を改めて思い浮かべる。しかし、敵を相手にした"名乗り"とは違って、こんな取り調べを受けているような立場で名前を出すのは何か抵抗があった。
リンは呼吸を整え、用意した言葉を一息に読み上げるように言った。
「私は五星戦隊ダイレンジャーの、ホウオウレンジャー・天風星リンです」
「は?」
警官の反応は想像していた以上に悪かった。「そうか、君があのダイレンジャーか」という返答をその直前まで心のどこかで期待していたリンは、相手の態度を受けて逆に黙り込んでしまった。
「レンジャー?」
「は、はい…… ダイレンジャーと言って……」
戦隊やゴーマのことを警察官が知らないはずがない、と考えたリンは一体どこから説明したものか迷うが、警官は聞く耳を持たないといった様子でその言葉を遮った。
「そういうチーム名か?」
暴走族や、"走り屋"のようなものを想像されてしまったことが相手の口調から読み取れ、焦りが増す。
「あっ……いえ違うんです、ダイレンジャーは」
「レンジャーはもういいから!」
強い口調で警官は言い、やれやれといった様子で制帽を一度脱いで額の汗を拭うとまた被り直した。
「免許証!」
「め、免許証……」
全く予想もしていなかった言葉だった。県境の山を目指してキバーマシンで出発したときから、いやそもそもダイレンジャーとしてこのマシンで移動するようになった時から今まで、公道でバイクを運転しているという感覚がまるでなく、免許証の提示を求められる状況というものを想像したことが一度もなかった。
「私、免許証は……」
「バイクに入れてた?」
「いえ、あの」
「持ってないのか!?」
警官は呆れを通り越したといった表情でトンネルの天井を仰いだ。

この警官の頭には、相手が自作の衣装で改造バイクを乗り回している集団の一員、それも無免許で、という思い込みしかなかった。だがそれも無理のないことで、怪人が現れたわけでもない場所で、肌に張り付いたピンク色のライダースーツを着た人間を見て、それが何か特殊な所属にある人物だと考えることの方が難しい。
「そ、それは…… バイクじゃなくて…… ごめんなさい、最初から説明させてください」
「聞いてられるか!」
マスクの額のあたりに唾が飛び散るような勢いで間近から警官に怒鳴りつけられ、リンは誤解を解く機会を失って立ち尽くす。こんな状況でさえなければ逃げ出すか、それとも力づくで解決するかという場面だが、腕や肩を痛め、そして横転したまま全く何の反応もなしに雨に打たれているキバーマシンをその場に置いては逃げ出せなかった。

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2016-06-26

衝突(6)

警官はレインコートの裾を捲ると、腰に付けていた黒い無線機を取り出し、早口で何事か通信を始める。
ますます大きな騒ぎになってしまった、とリンはマスクの中で目眩のような感覚に陥る。まさか逮捕されることはないだろうが、この時間では道士にも連絡が取れないだろうし、この場で誤解が解けなければ最悪の場合、警察署まで連れて行かれて事情を説明するようなこともあり得る。そうなったら仲間達にどんな迷惑がかかるか分からない。
「いま近くのパトカーに連絡して、とりあえずもう一台こっちに来るから。座ってゆっくり話しようか」
「ま……待ってください! 本当に…… ダイレンジャーも、ゴーマのことも知らないんですか!?」
必死に説明を試みるリンだが、警官は全く興味を示さなかった。
「君、学生か? 家の電話番号…… いやとにかく、そろそろヘルメット外しなさい」
マスクを取れと言われてリンははっとした。確かに素顔を知られていけない種類の相手ではない。転身を維持したままでいる必要も今はないはずだが、スーツがまだ雨や泥にまみれていることを思うと転身を解くのがためらわれた。
「えっと……」
とはいえ、自分の暴走や不注意のために余計な手間を取らせてしまった警察官を前にしてそうも言っていられない、とリンは思い直す。何より、転身解除の現場を見せれば色々な誤解も解けるはずだ。

「……」
だが、転身を解くためのいつもの手順をとっても、スーツやオーラチェンジャーは何も反応を見せなかった。薄いボディスーツが全身を満遍なく取り巻いた感じ、その上に被さる胴衣の厚み、腰の両側に下げた一双の武器、そして目の前の半透明な壁で視界と呼気を外界から隔てている硬いマスク。それらが消えていくときの自然な解放感が生じてこない。
解除、と頭の中で強く念じ、オーラチェンジャーのあった左腕の手首やマスク、胸のエンブレムを押さえたりしながら解除動作を繰り返すが、結果は同じだった。
「いや、ヘルメットだよ、メット」
ますます苛立ちを募らせた警官が言う。
「……っ、もうちょっと……」
衝突で受けたダメージ、スーツの傷や汚れ、精神の緊張といったものが戦闘の最中に似た身体の状態を作り出し、転身を解く障害になっているのかも知れない。マスクだけを解除する方法もあったはずだが、この状況ではそれは余計に難しそうだった。
「ヘルメットを外せ!」
ついにもう一度叱りつけられることになってしまい、リンは身体を縮こめる。実力行使ということにはならなかったが、いくら言われてもスーツがいうことを聞かないのだ。
「あの、これは……外せないんです……!」
「ハァ~? 何言ってるんだ? さっきから……」
もし力づくでマスクを脱がせようとしても脱げないことは分かっているが、リンはもう単刀直入に解説することにした。
「このスーツは、バイクのライダースーツとは違うんです。ゴーマと戦うための装備で、こう……」
そう言って、傍らで金網の一部が千切れて突き出した針金の鋭い先端にグローブの手のひらを強く押し当ててみせるが、どうもスーツの強度は伝わってはいないようだった。
「ほ、ほら、武器も……」
「武器?」
腰のホルスターに下げた剣を取り外そうとするリンの言葉に、警官が強く反応した。
「おいちょっと待て、武器っていうのはなんだ」
「あ、あのこれ……本物の剣で、おもちゃとかじゃないんです」
そう言ってしまってから、この場で「本物の剣」はまずかったか、と思い直す。そもそも「武器」がいけなかった。職務質問のような状況で、武器を持っていると自己申告するのは余りに悪手だったが、むしろ装備の中ではっきりと見せてしまっているものに今まで気付かれなかったのが奇跡のようなものだった。
「武器……は武器なんですけど……」
「ストップ! そのまま!」
腰の左のスターソードに手を掛けようとするリンを、警官が今までにない勢いで制止した。
「そのまま、それに触るな、手をゆっくり挙げて」
拳銃を突きつけられているわけではないが、ホールドアップ、"手をあげろ"の口調で動作を抑えられる。
(……)
一瞬迷った後、リンは両手をそろそろと肩のあたりまで上げた。

警官の態度がそれまでとは違った。最初は交通事故の責任者、せいぜいが道路交通法違反の人間を相手にする態度であったものが、完全な犯罪者を見る目付きに変わっていた。
「そう、それで後ろ向け。壁の方に」
まずい、まずいと焦りながらリンは仕方なく指示に従う。誤解を解く暇もないうちに次々と罪状が積み重なっていく。何とかしなければと思うものの、やり取りの主導権を相手に握られ、頭が混乱して何も思い浮かばない。
背後から照らす投光器の光がリンの上体で遮られ、トンネルの内壁には濃く大きな影法師ができていた。
「脚を肩幅に開けて、壁に手を着け」
まるで映画のシーンのようだ、と思いながら、犯罪者役のリンは汚れた煉瓦壁に体重を預けるように両手を着き、その間に首を垂れた。

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