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2016-07-12

衝突(7)

逮捕者に抵抗や反撃を許さないため取らせるこの姿勢は、実際にそれを強制されてみると全く屈辱的なものだった。後ろから警官に観察されながら、こちらは壁や足元をじっと見つめているしかないため、まるで目隠しをされているのに近い感覚がある。
さらに腰を後ろに突き出したポーズと、スーツの短いスカートのことを考え合わせると一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。普段はスカートを穿いているという意識もあまりない構造の戦闘服が、今の体勢では見られたくない部分が見え隠れするデザインの服のように思えてくる。
(こんな……脚を広げて、後ろからお尻が……)

しばらくの間、背後の警官は何も言葉を発さず、リンはただその投降姿勢のまま待たされていた。
トンネル外の雨音が壁際で反響して、警官の立てる物音が聞こえない。そこに居ることだけは分かるが、何をしようとしているのかの気配が掴めない。それは数十秒ほどの時間だったはずだが、不安定な体勢で緊張を強いられたリンにはひどく長い時間のように感じられた。
「はぁ……っ、はぁ……」
一方的に観察されている、という状況のせいで、じっとしているだけで勝手に動悸が高まっていく。壁に着いている手のひらも徐々に汗をかき始めていた。
(武器を調べるんでしょ……? 何を……してるの?)
だが振り返ったり、手足を今の位置から動かしたりすれば、取り調べに対し抵抗したと言いがかりをつけられてしまうかも知れない。今日はずっとそんな失態の連続だった。何をしても犯罪者扱いされてしまう事がたまらなかった。
(お尻…… 風は吹いてないけど、スカートの端は……)
「ひっ……!」
スカートの裾ばかりに意識が集中していた、ちょうどその部分をさわとくすぐられて、リンは思わず怯えた悲鳴を上げてしまう。しかし警官の目的は尻ではなく、やはり両腰に収められた武器だった。
「さっきから気にはなってたんだ、見た目からして何か危なそうだったから」
そう言って左の腰にあるスターソードを後ろからそっと引き抜こうとする。
(あっ……)
一般人には触らせたことのない自分の武器。気力の使い手でなければ凶器にはなり得ない仕組みの剣だが、そうは言っても無抵抗の状態で武器が他人の手に渡ることには強い抵抗があった。とっさに手をそちらに伸ばしかけてしまい、湿った壁の面でグローブがジャリッと音を立てるが、あやうく壁から手を離さないよう腕の動きをこらえる。

ベルトの左半分にかかる重量が減り、スターソードが警官の手に渡ったのが感じられた。
「何だこれ……」
剣のサイズや軽さに違和感を覚えたらしい警官がカチャカチャと手の中で武器を弄り回す音が聞こえる。ダイレンジャーの剣は気力を持たないものが使おうとしても刃が切れ味を示さないし、刀身も短く収納されたままで伸ばすことができない。
「おもちゃか……?」
それは独り言で、リンに向かって問いかけられたものではなかったが、反論すべきか、『そうです、本当はおもちゃなんです』と今は言ってこの場をしのぐべきか、リンは悩んだ。
そうしている内に、腰の右側に手が触れ、スターカッターがホルスターから外された。今度はずっと手付きがぞんざいなものになっており、手に取った剣の構造を確かめる様子もなかった。
「君、なあ」
警官が手に持った武器でマスクの後頭部をカンカンと叩き、小馬鹿にしたような口調で言う。
「こういう物はなあ、実物でもおもちゃでも、持ち歩いたらダメなの」
「は、はい……」
おもちゃではない、といった受け答えをする余裕はなかった。そばの地面へ投げ出すように武器が置かれ、また思わず振り返りかけたとき、スカートの上から尻を撫でるように軽く叩かれてリンは背筋をびくつかせた。
「君、名前は」
答えないわけにはいかなかった。リンは正直に、戸籍上の本名と、今年中国から留学してきたばかりの学生であることを説明した。
「中国人?」
「そ……そうです」
「ふん……」
逮捕者から返ってきた意外な答えに、警官は何か考え始めたようだった。
「それで一人暮らしか。年齢は?」
「18……です……」
そしてまたしばらく、無言の時間が続いた。

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2016-07-21

衝突(8)

「何か、顔を知られると困る事情でもあるってことか? 例えば、パスポートの問題がどうとか……?」
「ちっ……違います! これは、このスーツは本当に今、脱げなくて……!」
また勝手な罪状を付け加えられようとしている、とリンは慌てた声を出してしまう。伏せていた首をやや持ち上げかけるが、やはり抵抗は許されないと自分に言い聞かせて、投降のポーズを維持した。
不自然な体勢を続けていたため、さすがに身体の各所が疲労し始めていた。痛めた肩の筋肉が腫れてきたような感じだけでなく、首や背中の凝りが気になって、その場で足の位置を踏み替えたり、背中を曲げ伸ばししたりして身体をほぐそうとする。
「スーツ、ねぇ……」
警官がまたスカートの上から腰の後ろに手を添えてきた。事故後に腕を触ってきたときと同じく、スーツよりもリンの身体の方に興味があるという触り方だった。
「ああ、中国の」
チャイナドレスのような胴衣の、短い裾が金のラインで縁取られた部分を指でなぞりながら、そのデザインにようやく気付いた様子を見せる。金色の縁に沿って指を這わせ、腰の横で深いスリットになった部分までをゆっくりとなぞっていく。それはただ物珍しさのためのようでもあったが、スカートの、本人には見えない部分の形状をリンに教えるかのようでもあった。

「いつもこんなの着てバイクに乗ってるのか?」
質問の調子がまた変わり始めていた。スカートの上からならいくら触ってもいいとでも勝手に決めたように、ベルトの直下にべったりと手の平を触れ、そこから尻の部分をゆっくりと下へ撫で下ろしていく。雨水に濡れた手がスーツ表面にまとわりつく感触から逃れようとするが、足の位置を変えられないため、その場で尻を振るような動きをしてしまう。
「バイクじゃなくて……」
たとえまともに取り合ってもらえないにせよ、説明せずにはいられなかった。
「こ、このスーツは……ただ着てるんじゃないんです。気力の……ダイレンジャーの力でできているスーツで、脱いだり着たりはできなくて、それに……」
だが警官の耳にはその台詞は全く聞こえていないか、聞く気もないようだった。適度な弾力のあるリンの尻の感触をスカート越しにしばらく楽しんだ後、さらに遠慮を無くして、もともと臀部を半分ほどしか覆い隠せていない短いスカートの端を指で摘んで持ち上げる。ピンク色のスーツ1枚に包まれた下半身を男の目の前で晒されて、リンの動悸がますます高くなった。
「こんな薄い、ピチピチのタイツで、危ないだろ」
「いえ、薄いけど、十分…… んうぅっ!」
警官の、湿った大きな手が、太腿から尻にかけてスーツの上へ無造作に触れてくる。
「ん? ちょっと何だこれ? これ、下履いてないんじゃないのか?」
肌に直接触れられるのとほとんど変わらない感覚で伝わってくる掌の質感に悩まされながら、リンは途切れ途切れに答える。
「は……穿いてません……でも……」
時速100km以上の走行中に転倒して破れも重傷もないスーツの強度は信頼の置けるものだったが、今こうして男の手の感触を下着もなしに肌で感じていなければならないのもスーツの特性ゆえだった。
「中国じゃ普通なのか? こういうの……」
「中国は関係なくて……でもダイレンジャーは……き、聞いて下さい……」
警官の手が一瞬身体から離れ、ほっとする間もなく今度は脇の下へ両手が添えられる。
「うぅっ……!」
両手を使って、脇の下、腰骨の上、太腿の両脇と、身体の各所を順番にぬるぬると撫で下される。施設入り口でのボディチェックを想像させるような、公的な職務というニュアンスが若干含まれていたせいか、やめて下さいという言葉が口から出せなかった。
「これもほとんどシャツみたいなもんだろ…… よくまぁこれで」
警官のごつごつとした手が脇腹に添えられており、その指先は胸、乳房の膨らみの麓まで延びてきている。リンも腕の動きを封じられて胸やその周辺を無防備に晒したポーズのままであり、完全にされるがままになっていた。

ここまでされても抵抗しない相手だと見て取ったか、警官は手の位置を脇腹から徐々に前方へにじり寄らせる。そして頃合いを見て、一気に両手で乳房の中央を掌の中に収めた。
「うっ……!」
「こっちもだな」
それは下着を着けていないという意味らしかったが、安全性がどうという建前からはとうに外れた段階の行動であり、しかし、リンもそんな台詞のおかしさに反応する余裕もないほどに追い込まれていた。
恥ずかしさや嫌悪感にも関わらず、男からの執拗な接触を受けた身体は相手の意に沿うような反応を返してしまっていた。
スーツ越しに触っても分かるほど乳房や乳首が張り詰め、鼓動に合わせて乳首の先が震えるほどだった。そこを男の指で挟まれ、転がされて、背筋を仰け反らせてしまいそうな感覚がこみ上げる。転身して敵と戦うための姿でいるのに、相手は正規の勤務中の警察官なのに、なぜこんなことになっているのか全くわからなかった。

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2016-07-21

衝突(9)

激しくなったり弱まったりを不規則に繰り返していた大雨の音に混じって、それとは違うトーンの雑音が聞こえ始めた。
興奮状態のリンはそれに気付けなかったが、警官はやや我に返り、リンに後ろから抱き付く形になっていた身体を離した。先ほど無線で呼んだ車両がようやく到着し、二人が今いるトンネル封鎖地点に徐行の速度で近づいてくる音だった。
「お待たせです! すいません遅くなりました!」
車止めのバリケードを隔てて離れた場所にパトカーが止まり、運転席の窓が開いて若い警官が顔を出した。
「タオルと、あと着替えも取りに行ってて……」
車両が前進後退を繰り返してトンネル側へ近付き、ドアが開いて制服姿の警官が慌てたように降りてきた。そして、中年の警官の脇でピンクの人影が投光器の光を浴びて壁にれかかっているのを目にして、あっけに取られた様子を見せた。
「何ですか、それ……」
「さっき言った、バイクの女の子。まぁー色々と、面白い話が……」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! もしかしてその人!」
背後の会話に、ほとんど気を失いかけていたリンも流石に事態が好転したことを悟った。
「ダイレンジャーの……」
「は、はい…… そうです……」

それから、若手警官が警察関係者向けのカラー刷り資料を取り出し、無線の連絡が何往復か交わされ、中年の警官は濡れた土の地面に膝を着いて、頭を擦り付けるようにしてリンに謝罪を繰り返した。
他県から転任してきたばかりで、ダイレンジャーに関する情報が都外に公開されていなくて、といった懸命の弁明を警官二人から聞きながら、リンはただこの場から遠ざかりたくて、緊張のため硬直した筋肉を動かして雨の中へ駆け出す。
「ごめんなさい、私もう、行かないと……!」
車で送ります、正式に謝罪させてくださいと口々に言う声を尻目に、泥に浸かり雨に打たれたままのキバーマシンを起こそうとすると、手を触れる直前にマシンはひとりでに起き上がって原動機の音を立て始めた。
秘密で、今日のことは絶対に誰にも秘密でと涙声で叫びながら、リンは元来た東京方面への道を走り出し始めた。

真っ暗なトンネルをしばらく進み、事故現場の非常灯が見えなくなってからマシンを降り、ふらふらと車道の脇に崩れ折れた。
時刻はもう日の出近くに違いなかった。数時間後に迫った仲間達との再集合のことを思い出して、リンはぐったりと地面の上に頭を垂れた。

(完)
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