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2018-05-20

迷鳥(8)

(このままじゃまずい……!)
このまま多対一でやられっぱなしになっている訳にはいかない。リンがここへ向かってきている可能性も低く、少々の無茶をしてでもこの状況を脱しなければ、と思う。
その場で左右に軽く足踏みし、手足の力が戻ってきていることを確認してから、右腕を掴んでいる女性の身体を強引にぐいと引き寄せ、膝で自分の腕を狙って高く蹴り上げる。
「ごめんなさい!」
大きくバランスを崩した女性が無言で床へ倒れようとする隙に、掴まれていた腕を振りほどき、腰のホルスターに仕舞われた自分の武器に手を掛けた。
「メガスナイパ……」
叫びながら銃口を口紅歌姫に向けようと視線を正面に戻したとき、予想外の反応速度で口紅歌姫が距離を詰めてきていた。
唇の形をした青龍刀がすでに高く振りかぶられている。思わず怯んでメガスナイパーの照準が外れた瞬間、左の肩が火花を上げて斬り付けられた。
「きゃああぁ〜っ!」
掴まれたままだった側の腕を、肩から切断しようとでもするように強く斬り付けられ、左に居た女性がその勢いでメガイエローと共に地面に倒れ込んだ。
「かはぁっ!」
背中から床に叩き付けられ、肩から上腕までに重く響く痛みをこらえて上半身を丸める。一緒に倒れた女性の様子をようやく目で追ったが、完全に気を失っているようだった。
(なんてこと……)
操られた人間を傷付けることも平気な怪人の戦い方に怒りが沸き上がる。しかし、それよりも自分自身のダメージの方が深刻だった。両手の拘束が外れたにも関わらず、深く斬り付けられて煙を上げる胸や肩の痛みがひどく、とても起き上がれそうにない。離れたところに転がったメガスナイパーを取り戻さなければならないのだが、その距離があまりにも遠く感じた。

(何なの……? この痛みは……)
まるで傷口に毒を塗り込まれているかのような、嫌な痛み。肩を押さえつける右手のひらに、斬られた部分がわずかに腫れ上がっているのを感じる。手を恐る恐るずらすと、わずかな液体が傷口から染み出したような気がした。
(……! スーツが……!?)
スーツが破壊されて出血したかと思い、そっと手をどける。しかし、そこにあったのは黄色いスーツに滲む赤い血の染みではなく、痛みを発する箇所にはふさわしくない、紫色のキスマークだった。
「な……!」
口紅歌姫の身体と同じ毒々しい紫の唇が、スーツの生地上に出現していた。刃が当たった部分を口紅でなぞって描いたように、スーツの黄色とは違った質の光沢を持っている。はっとして白いグローブの掌を確認するが、そちらには口紅が付着している様子はなかった。
「これは……」
「ほほほ、驚いた?」
床の上でようやく上体を起こし、口紅歌姫と傷を交互に見比べていたメガイエローはすぐ、最初に斬りつけられた胸の正面にも同じキスマークがいつの間にか現れていたことにも気付いた。紫の唇がほぼ真っ直ぐ、胸元の五色のカラーパネルのうち中央にある赤を縦断している。肩の痛みのために意識から消えていたものの、内側から疼くような感覚に変化した痛みが胸に残っていた。
(一体、何を……!?)
胸にできた唇、腫れのためか本物の唇のようなぽってりとした厚みを帯びた唇にグローブの指先でそっと触れると、ジンとした感覚がその周囲に広がった。
「うぅっ……?」
ただ痛いというのとは全く違う、傷口に触れたとは思えない不可解な感覚。思わず身を屈め、びくりと引き攣らせると、口紅歌姫の愉快そうな声が頭上から降ってきた。
「斬り殺すのもつまらないから、これを使ってしまったわ。あと2つ3つ行っておこうかしら」
「っ……!」
攻撃の正体を確かめることを後回しにして、メガイエローは身を翻して床を蹴り、視界の端にあったメガスナイパー目掛けて飛びかかった。この怪人には駆け引きは通用しない。とにかく少しでも反撃を……
だがそれも口紅歌姫の方が一瞬早かった。床の武器に手が届くかと思った瞬間、背中から脇腹にかけて、鋭く切り裂かれる痛みが走り、爆音が響いた。
「ふぐあぁあっ!」
右の腰近くに、またあの激痛を伴う傷を付けられた。意識の飛びそうになる苦痛に、武器を取ることはできず背を反らせて倒れ込んでしまう。合計3箇所の重症にメガイエローは床で身悶えしながら、メガレンジャーの4人の仲間のことを今更のように思い出していた。
「……ぁっ…… あぁ……っ !」

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