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2014-12-13

渇水(7)

一瞬のあいだ気を失ったハリケンブルーは、プールの水中から飛沫と共に打ち出すように放り上げられ、プールサイドの地面に身体を叩きつけられて、そこで意識を取り戻した。
「ぁあ……っ!」
ざらついたコンクリートの地面に身体の前面をへばりつかせるようにして倒れている。両脚を力無く開いて投げ出し、普段はスカートで隠れているレオタード状の青い下履きが脚の根元に食い込んでいるのを見せ付けてしまっていた。
ようやくプールから脱出したというのに、身体中の痛みに加え、水から上がった疲労感が追い討ちとなって、息も絶え絶えといったような苦しげに呼吸を繰り返す。青と銀色のスーツは流動性の低い粘液でまみれ、まるで産道を通って産み落とされたばかりの生き物のように日差しの下でテラテラと光っていた。
(か、身体が……重い…… 動けない……!)
水中の酸素を取り込んで呼吸を維持するシノビスーツの機能が、粘液で全身こってりと覆われたために使えず、スーツの内部は軽い酸欠状態となっていた。水から上がった今でも、スーツ外部の空気を充分に呼吸することができずに息苦しさが続いている。しかしハリケンブルーにはそれに気付く余裕もなく、マスクを操作してフェイスオープン状態にすることも思い付かなかった。グローブの指先までくまなく粘液が纏いつき、シノビスーツの上に薄い皮膜を被ったような感覚、そして不快な生ぬるさが皮膚にぺっとりと張り付いている。
呻きながら横へ転がると、鎖帷子と忍装束の間に溜まっていた粘液が滲み出すように零れ、青い装束の袖口やスカートの内側で糸を引く。コンクリートに擦り付けられて捲れ上がっている、青いタイトスカートの前の裾を掴んで元に戻そうとするが、粘ついた液でグローブが滑り、上手く行かなかった。
脚と脚、脚とスカート、身体と地面の間で粘りつく液体の感触を、気持ち悪いと思いつつ、今はそれを洗い流す方法も拭く物もない。
「ゲロゲ〜ロ、もう一度水に入れてやるか、それとも……」
プールの水を蹴立てて近づいてくる怪人の声を聞いて、ハリケンブルーは何とか力を振り絞って反撃か逃走かのために立ち上がろうとする。うつ伏せになっている上半身を起こそうと腕を動かすと、ニチャッ、と音がして、顔のそばの地面と手のひらの間で透明な粘液がとろりと糸を引くのが見えた。
「うぅっ……」
プールの水が変化した粘液は、陸に上がったハリケンブルーの身体表面で乾いたためか、より粘度を増して、糊か接着剤のようになっていた。両手を付いて身体を持ち上げようとすると、比喩ではなく身体を地面から引き剥がすような力が必要だった。
水中で使おうとしたが作動しなかった左腕のハリケンジャイロは、いま改めて見ると装置の細部までが粘液に覆われ、どう見ても使用不能になっていた。これでは、発信機機能はおろか、手裏剣を飛ばすことすらできない。
(ど、どうしたら……)

「ゲロゲ〜ロ、反撃する力もなくなったか?」
泡立った音とともにプールから上陸し、巨体から粘液を滴らせながらガマジャクシが近づいてくる。陸地では動きが鈍いものの、ゆっくりとこちらへ距離を詰め、まだ完全に立ち上がれないハリケンブルーの前に立ちはだかる。
「っ……!」
尻餅をつき、後ずさりしながら、何とかこの状況を逆転できる手はないかと考えを巡らせる。
(武器は使えない、忍法もこの状態じゃきっと……)
プールのそばに居るというのに、水が使えない。カエルの卵が混じった粘液を身体中に塗りたくられ、洗い流さなければ……
(洗う…… そうか! 水はプールだけじゃない、シャワーが、水道があるはず!)
素早く左右を見回し、更衣室に繋がるシャワールームの場所を確認する。十数メートルほど先にあるその場所へ、ガマジャクシには構わず駆け出していく。
「やぁっ!」
だが、疲労し、接着剤のような粘液にまみれた身体では普通に走り出すことすらできなかった。二、三歩進んだところで前へつんのめり、膝を付いて、その場へ倒れかけてしまう。
「逃がすかァ!」
ガマジャクシが、振り向きざまに口から一匹の子ジャクシを吐き出し、それがハリケンブルーの背中へ乗って張り付いた。
「あ……! あぁ〜〜ッ!!」
ハリケンブルーは地面で身をのけぞらせて悶えた。背筋をはじめとして全身の力が抜け、立ち上がろうとしていた足腰が急にかくんと折れて地面に両手を付く。
コバンザメのように食いついた子ジャクシに血を吸い出されている、そのように感じられた。わずかな痛みと、血液や体液を吸い出されていく感覚に対して、反射的に右手を背中に伸ばす。
右肩近くに張り付いた、鯉の成体ほどに成長した子ジャクシを掴んで投げ捨てようとする。子ジャクシは栄養を吸って膨れ上がったようにブヨブヨとした感触に変化し、掴むと指先がその肉に浅く食い込んだ。背中に牙か何かを刺し込んで食いついているのではないかと思ったが、思い切って子ジャクシの胴体を掴むと、スーツの一番外側に着た忍装束だけが一緒になって引っ張られ、その下の鎖帷子や肌には何かが刺さったわけではないことが分かった。
忍装束が千切れたらどうしよう、と思いつつそれでも力任せに引っ張ると、ジュボ、という音を立てて吸盤を引き剥がすように子ジャクシの腹が青いスーツから離れた。
「あっ、はぁっ、はぁっ……」
肥満したように柔らかい子ジャクシがハリケンブルーの白いグローブの中でもがいている。スーツに吸い付いていたらしき口部分に目をやると、岩から剥がしたアワビの肉のようなグロテスクな吸盤状器官が呼吸するように動いていて、思わず小さな悲鳴を上げて子ジャクシの身体を地面に叩き付けた。
全身を細かく震わせながら、ハリケンブルーは膝と肘を地についてその場にうずくまる。さっきの攻撃に力を吸われたようになって、疲労の度合いが一段と強くなっている。投げ捨てた子ジャクシの様子にちらりと目をやると、水中では緑色に光っていたその機械生物が、今はハリケンブルーのスーツの色を思わせる青色に光っているのが見えた。
(や……やっぱり……)
エネルギーを吸われてしまったのでは、という直感は当たっていた。目の前で光の青色が見る見るうちに濃くなり、子ジャクシが小刻みに震え出した。子ジャクシの身体の輪郭が曖昧になり、膨れ上がったかと思うと、次の瞬間、その身体が炎を上げて爆発した。

突然のことに、受け身を取る間もなかった。至近距離からの爆発にハリケンブルーは軽く吹き飛ばされ、更衣室の建物の外壁に身体の側面を叩きつけた。
「あぅう……っ!」
爆風や機械の破片をまともに浴びた右腕と、コンクリート壁に叩きつけられた左半身がジンジンと痛む。爆発した子ジャクシは跡形もなくなり、青い煙のようにうっすらとその場に漂っていた風神エネルギーもすぐにその場から消えてしまった。吸い出されたエネルギーが取り返せなくなってしまった、という思いが頭をかすめるが、今はそれどころではない。
そのまま気を失ってしまいそうになるのをこらえて立ち上がり、洗浄用シャワーがあったはずのプール出入口の方へ向かった。

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コメント

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それとも…?

いやぁ~生き殺し状態ですねこれは(^^;)

更新お疲れさまですm(_ _)m
死ぬほど先が気になりますが我慢して、
気長に更新を待つとします!

何かと忙しい時期ですので、
ご無理のないよう頑張ってください!

Re:

この次は「それとも」の方になるのでご安心ください。明日ラスト近くまで書くつもりです。

お疲れ様です。

いちいちコメント申し訳ありません。m(_ _)m
いよいよですね!
このあとの卵の動きも気になります!

くどいようですが、
スーツのアノ部分への責めも期待しちゃっていいのでしょうか?(^^;)

気力吸収!

子ジャクシによる気力吸収、きましたね!
来週で完結でしょうか?
一体どうまとめられるのか、注目させて頂きますよ!

Re:

レスが遅くなってしまいました。
土日になりそうですが、クライマックスは前にリクエスト頂いたようにするつもりです。
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Author:鳥籠
管理人の名前も鳥籠。
2chエロパロ板のヒロピンスレでの活動を経て個人ブログを立ち上げました。

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