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2016-05-03

窮鳥(4)

「やったわ!」
思わず胸の前で拳を握りしめたイエローフォーだったが、次の瞬間、今度は自分が電撃に貫かれたような痛みに襲われ、握っていた手を胸に当ててよろめいた。急速に増していく痛みは、どうやら心臓とその周辺から発していた。
(心臓……!? ま、まずい……!)
バイオ粒子のエネルギーを使い切ってしまうのでは、という不安はほぼ的中していた。マスクやスーツのの電子頭脳で制御しているとはいえ、そのコントロールも今はイエローフォーの安全を保つことが出来ていなかった。心臓や循環器系に過剰な負担がかかり、悲鳴を上げているのが感じられる。
「あ……っう……!」
胸に右手を当てたまま土の地面に片膝を付いてしまう。それとほぼ同時に、心臓だけではなく胸の各所、そして脇腹や太腿から滲み出すような鈍痛が沸き起こってくる。どれも、バイオキラーガンで撃たれたまさにその場所だった。
「っぐぁあ……っ!」
絞り出すような呻き声が口から出てしまう。痛みがぶり返したというのとは全く違った。打ち込まれた反バイオ粒子の作用が徐々に広がっていく感覚だった。身体のがあの黄色と灰色のマーブル模様に染め上げられ、有害なエネルギーに冒されてゆく。
心臓部の痛みだけは先程の一瞬だけで収まり、しかし左胸全体がドクンドクンと波打つような異常な鼓動が続いている。血流に乗って反バイオ粒子の毒が全身に回っていく、そんな幻が見えるようだった。あっという間に体幹から四肢、そして首から上に不快な感覚が広がり、それが脳まで辿り着いたと思った瞬間、脳内に何か熱いものが注ぎ込まれたように感じて、イエローフォーは頭を抱えて地面に倒れ込んだ。

「ああぁあっ! あぁっ!」
身体を丸めてその場で横倒しに転がったイエローフォーは、フルフェイスマスクで覆われた自分の頭を抱え込み、折り曲げた両脚を内股で激しく擦り合わせて、じたばたと地面をもがいていた。まるで頭でも打ったように、もしくは頭皮が痒いのを掻こうとしているかのように、グローブの掌でマスクの側頭部から後頭部のあたりをごしごしと撫で回し、押さえ付けて、その内部の異変から発生する苦しみに支配されている。そして丸めた身体をまた反り返らせたかと思うと、何度も寝返りをうつように身体を反転させ、全身に行きわたる苦痛と不快感に小さな叫びを上げる。
「くぅあ……ぁっ……!」
意識の上ではほとんど脳と一体化している電子頭脳が異常な信号を発していた。その影響を受けるイエローフォー自身の身体にも、新たな異変が起き始めていた。
「身体が……おかしい……! バイオスーツも……っ!」

全身に微弱な電気が流されるような痺れに纏い付かれ、頭だけでなく全身を掻き毟りたくなる。意識がぼんやりとし、極度の疲労感はずっと続いているのに、皮膚の感覚だけが異常に鋭敏になって、身体を少しでも動かすたび密着したバイオスーツに体表面を撫で上げられる感触で背筋が強張ってしまう。
「う……うっ……! と、とにかく……!」
せっかくメカクローン達の襲撃をやり過ごしたというのに、これでは仲間を探して移動することすらできない。離れた場所にばらばらと横たわり、うっすらと煙を上げているメカクローン達が再び動き出す気配はなさそうだったが、いつ援軍が来るか分からない今、この状態でここに留まるのは危険だった。
痛みと感覚の異常は収まらないもののそれ以上には酷くなってこないことを確認し、イエローフォーはやっとの思いで上半身を起こす。しかし完全に立ち上がることはできず、すぐに両手を前へ着いてしまった。
「はぁ、あ……っ」
とにかく身を隠せる所へ、とイエローフォーはやむなく四つん這いの姿勢で移動を開始する。廃材の山とメカクローンの残骸から離れ、先程の鉄板で舗装された一帯を通り過ぎて元来た建物の方へ戻ろうとする。数十メートルの距離だったが、今の身体ではそれだけの距離でも一苦労だった。

さっきまでやや翳っていた太陽がまた顔を出し、イエローフォーの背中を強く照り付けて地面に濃い影を落とす。移動が鉄板の上に差しかかると、日光の熱を蓄積した鉄板の熱さが、往路よりずっと強く感じられた。スーツの機能が低下していることは明らかだった。震える膝で一歩進むたびにゴオン、ゴオンと熱い鉄板が鈍く響く。背中に受ける太陽の熱もスーツを通してはっきりと感じられる。もしもここで力尽きたら鉄板の上で蒸し焼きになってしまう、などと考えながら、ひたすらに建物の陰を目指した。

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