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2016-06-16

衝突(3)

カーブの終わりと共に現れたトンネル出口の向こうから、唐突な赤とオレンジ色の光がホウオウレンジャーの視界を射た。
「!」
しばらく見なかった通行禁止表示の出現が突然に感じられた。そして雨の中で点滅回転する光の群れが先程のような非常灯だけではなく、警察車両らしき車のライトがその中に混じっていることを脳が認識して、まずい、と反射的に手が制動動作に移った。
だがマシンは最高速度に向けて加速する途中だった。トンネルを抜けた時に前輪がやや浮き上がり、制御不能になりかけるのを強引に元に戻したものの、機体はほとんど減速せずに前方へ突っ込んでいった。
「あ……あっ!!」
路面に置かれたバリケードのいくつかを蹴散らし、回転灯を灯したパトカーの横を通り抜けて、記憶にはなかった第四のトンネルに向かって進んでいく。
減速が間に合わない。そして、前方のトンネルは高く積み上げられた土嚢と金属の骨組みで完全に封鎖されて、飛び越えて進むこともできそうになかった。
「うあぁああぁっ!」
正面衝突だけはまずい、と反射的に大きくハンドルを切って横へ逸れようとする。だが駄目だった。凸凹の付いた路面を前輪がえぐるような感覚が一瞬あって、走行速度そのままのスピードで身体がマシンから横倒しに投げ出され、地面に叩き付けられた。
落下の一瞬、キバーマシンが中央から真っ二つに折れたのではないかという想像が浮かび、直後の衝撃に一瞬意識が飛んだ。
そして次に気付いたのは濡れたアスファルトの地面を自分の身体が滑走していく途中だった。マスクの側頭部が固い路面上でガリガリと音を立て、腰から下が激しく摩擦されて熱を感じる。ちょうど目の前にピンク色の機体が横倒しになって自分と等速度で引きずられていくのを捉えた時、転倒時を上回る衝撃が全身に走った。
トンネルの入り口脇、煉瓦模様の刻まれた分厚い石造りの壁面にホウオウレンジャーは背面から叩き付けられていた。

「……っ、ぉ……!」
衝撃を吸収するものが何もない岩石の塊に身体が衝突し、跳ね返ることさえできずめり込むような勢いで壁に張り付けられる。辺りに低く重い音が響いたが、それはマシンが離れた場所で土嚢の山に突き刺さる音で掻き消された。
今までどんな敵からも受けたことのない重い打撃。生身であれば即死どころか身体がぐちゃぐちゃに潰れていたかも知れない勢いだった。
(く、首から……当たっ……!)
頭蓋骨とその内側、背中から肩へ深く響き渡る激痛に声も出せず口をぱくぱくと開閉する。横隔膜が痙攣し、息を吸い込めない。急所に受けたダメージの程度が自分ではわからず、頸椎、延髄、損傷といった言葉を思い浮かべながら身体を小刻みに震わせるしかない。
だがスーツとマスクは流石の衝撃吸収能を発揮していた。両手で頭を抑えて、気絶も麻痺もなく痛みに悶えていられるのは致命的な怪我を負っていない証拠だった。
「ぁ……、おぉ……っ」
それでも、しばらくはその場から動くことができない。胎児のように身体を丸めた姿勢で、小刻みに痙攣しながら痛みの余韻をこらえる。首も頭も、その他の部分にも骨折や出血のないことがようやく自覚できてから、そろそろと身体の硬直を解いた。
痛み以外の感覚が徐々に身体に取り戻されてくる。大粒の雨が依然として降り続き、横向きに倒れたホウオウレンジャーの全身をスーツ越しに濡らしていた。

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