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2016-09-19

嚥下(1)

「あ…… あぁ……」
ドーラブーガラナンの巨大な口に頭から呑み込まれていくダンの姿を見ながら、プテラレンジャー・メイは身体を強張らせていた。
この蛙のような姿のモンスターの弱点、顎の下に隠れている本物の顔を狙うためには一人が囮になるしかない、というダンの決死の作戦だった。メイとダンを除く3人のジュウレンジャーは既にドーラブーガラナンの腹に納められ、それぞれのマスクが黄緑色をした腹部の表面に並んで浮き出している。
「今だ! 撃てぇっ!」
吸い込まれるように喉の奥へ落ちていきながら叫ぶダンの声に、メイはようやく思い出したように両手でプテラアローを構える。ダンの青いスーツの足が鋭い牙に突き刺されながら、口の中へ徐々に消えていく。
手が震えていた。絶対に外せない、しかし、この怪物を倒したとして、体内にいる仲間たちは本当に元に戻るのか、というためらいが矢を放つのを遅らせた。

「そうはいくか!」
全く予期しないタイミングで横から突き飛ばされ、メイはプテラアローの弓と矢を手から落として地面に転がった。
「あぁっ!」
突然の乱入者の正体をメイは身を起こしながらようやく確認する。そこには魔女バンドーラの部下、トットパットが弓矢を踏みつけ、息を切らせて立っていた。
「やっと追いついたぞ、プテラレンジャー、これであとはお前ひとりだ!」
「そ、そんな……!」
ドーラブーガラナンの側に並んだトットパットが怪物の腹を指差すと、そこにはダン、トリケラレンジャーのマスクが新たに浮かび上がり、ダンが体内に取り込まれたことを示していた。
お前ひとりだ、というトットパットの言葉が耳の中で反響する。仲間を次々に呑み込まれ、プテラアローも奪われて、非力なメイにとってはもうほとんど打つ手がないも同然だった。
「ダン! みんな!」
メイの呼びかけに4人の顔は応えることなく、声が聞こえているのかどうかさえも分からない。ドーラブーガラナンが膨れた腹を勢いよく叩くと、重い内容物の詰まったタンクを思わせる鈍い音がした。
「よーし、やれっ!」
「グッフフ、こいつもナマのままで呑み込んでやるゥ〜」
ドーラブーガラナンが大口をかっと開き、その中に折り畳まれていた舌を伸ばそうとする。
とっさに身を翻して逃げようとしたメイの腕に、空気を切り裂くような音とともに怪物の赤く長い舌が絡みついた。

「いっ、いやぁっ! 嫌ぁあぁっ!」
男の腕ほどの太さの、わずかに濡れた舌の表面は異常な粘着性を持っていた。強く巻き付けられたわけでもなく、ただ二の腕あたりを一巻きされただけなのに、スーツの表面に強く貼り付いて外すことができない。腕を引っ張っても捩じっても、まるで接着剤でも塗られていたかのように、一度付着した部分がどうしても剥がれない。それを身体ごとグイと引っ張られて、よろめいた上体を元に戻した時には、両腕と胴が粘っこい舌で一括りに取り巻かれていた。
「んあぁあっ!」
もう一度力任せに引っ張られるとピンク色のスーツの表面が軋むようにギュウッと鳴り、縛られた身体が怪物の方へ引き寄せられる。土の地面をブーツの底で強く踏みしめて堪えるが、それでも力比べでは敵わず、一歩、二歩と巨大な口に向かって歩まされていってしまう。
「ングッフッフ、ムダだ〜」
ドーラブーガラナンが首から上を大きく振るとメイの身体が放り投げられるように宙に浮き、直後、舌が急速に口中へたぐり込まれる。

あっという間にメイの眼前に怪物の顔面が迫り、喉の奥の赤黒い空間が目に入る。
しかし、上顎に並んだ牙にマスクの頭頂部ががちりと当たって、一気に呑み込まれることだけは危うく逃れた。
「きゃあっ! あ、あっ!」
だが、二の腕のあたりで両腕がきつく縛られており、そこから反撃も抵抗もほとんどできない。牙と厚い唇の間にマスクが挟まれ、視界を奪われてしまう。何とか動かせる肘から先で必死に捕まるところを探し、下顎に生えた太い牙の一つをようやく掴むが、唾液に塗れた牙はグローブの掌の中でヌルヌルと滑って、不自由な指先が何度も柔らかな口腔粘膜を掻きむしる。
ドーラブーガラナンがもう一度口を大きく開けると、マスクの凹凸で辛うじて牙に引っかかっていたメイの頭がずるりと口蓋の表面を滑って、ついに口の中の空間へ大きく落ち込んだ。
「ああぁっ! いやぁ!」
掴んでいた牙を耐えきれずに手から離してしまい、同時に口がばふんと音を立てて一気に閉じ合わされた。

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